翌3月、CIA本部・ラングレーにいた秘密作戦チームのエドナー・ガーツは、アフガニスタンにいた同じ地域担当室・アフガン支局のレナード・コンプトンから連絡を受けていた。 ムジャヒディンのリーダー、シール・タリブの足取りが掴めないと。 そこで75年の7月から数回アフガニスタンに入国している、バリー・タウバーの存在を挙げた。 「奴は、君のコントラクト・エージェントではなかったのか?」 電話の向こうで、コンプトンが言った。 「厳密には違う。こちらから依頼をするだけの関係だ」 ガーツが応えた。 「彼は、パキスタンにも去年からの半年で4回入国しているようだ。彼は何か知っているのではないのか?」 コンプトンは、昨年の7月にアフガンに入ったバリーを一度尾行したが、すぐに撒かれたと言った。 「一度、こちらで確認してみよう」 電話を切ると、ガーツはシカゴへ向かった。
シンディ・ハスラムからは、タウバーが何度かアフガニスタンへ向かったと報告を受けていた。反政府勢力・ムジャヒディンのリーダーをKGBよりも先に確保するのは、最重要任務ではあったが、こうも足取りが掴めないということは、彼はKGBに捕らえられたか、もしくは死んだかのどちらかであった。 レナード・コンプトンの言うように、バリー・タウバーは何か知っている可能性もある。 シカゴに着き、レンタカーでイースト・エルム・ストリートまで来ると、タウバー商会が入っているビルの前に車を停めた。二階のドアまで上がり、ドアの呼び鈴を鳴らす。 ドアが開くと、中からバリーが顔を出した。 「あんたか」 ガーツを中に招き入れる。 「相変わらず、殺風景で何も無い事務所だな」 ガーツは、デスクの前のソファに腰掛けた。 「最近は忙しくてな。なかなか事務所の整理が出来ん」 バリーが差し出した灰皿を見ると、ガーツは煙草を取り出し、火を点ける。 「で、俺に話しって何だ?」 そう言いながら、バリーも煙草をくわえた。 「貴様、最近はアフガニスタンに出入りしているらしいな」 「ああ」 「何の用でだ?」 バリーは蔑むような笑みを浮かべる。 「俺の商売は武器だ。それは、あんたが一番よく知っているだろう」 「アフガンに、戦争の臭いを嗅ぎつけた訳か」 ガーツはバリーの眼を見る。 「金を稼がないとな。案外、会社経営ってのは難しいんだぞ」 事務所の中を見回した。高価な装飾品なども無く、キャビネットにファイルが何冊かあり、決して儲かっているようには見えなかった。バリーが言ったことは、強ち嘘ではないようだ。 「武器販売の相手は、誰だ?」 ガーツが言った。 「それは商売上の機密だ」 「ムジャヒディンのリーダー、シール・タリブでは無いのか?」
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