真夏とはいえ、夜になるとさすがに冷えてきた。バリーは寝袋を借り、満天に広がる星空の下で、眠りにつく。背中に当たる岩が痛いが、ベトナムのジャングルで眠ることを考えれば、まるで天国のようだった。
翌日、数人のムジャヒディン達が騒いでいる声で、目覚めた。バリーは彼らに付いていく。山頂まで来ると、タリブが双眼鏡を覗いていた。 「何があった?」 タリブはバリーに、持っていた双眼鏡を手渡した。 「敵か?」 タリブはそう言いながら、目を細めた。双眼鏡を覗くと、山頂の向こうから、大型のヘリコプターがこちらへ向かっている。ロシア製Mi-17(ミル17)だった。 「心配ない。あれは、俺の社のヘリだ」 バリーがそう言うと、タリブが指示を出し、銃を構えていたムジャヒディン達が、戦闘体制を解いた。 キャンプ地の上空まで来ると、Mi-17から大型のコンテナが落とされた。その後で、一人の男がラペリングで、地上に降り立つ。 「デイビッド、時間通りだな」 バリーはその男・デイビッド・クルーエルの肩を叩いた。 「全く、人使いの荒い社長だな」 クルーエルが微笑んだ。 バリーはそのコンテナを開け、中からライフルや弾丸などを取り出し、それをタリブに見せた。 「すぐ用意できる分だ!」 バリーの声で、ムジャヒディン達が一斉にコンテナに群がった。その後から、シール・タリブがバリーの顔を見上げながら、ゆっくりと近付いてきた。彼は、驚いた表情を隠せないでいた。 「“明日の朝、分かる”というのは、こういうことだったのか・・・!」 「迅速・信用第一が、俺の仕事のモットーさ」 バリーが笑みを浮かべた。 「昨日話した初回納入分と、当面の食料、衣料、医薬品が入っている」 バリーがそう言うと、タリブはコンテナの中を覗いた。彼は満足げな表情をバリーに向けると、代金を渡すので、自分のテントまで付いて来いと言った。バリーは、それを辞退する。 「初回納入分の金は要らん。サービスさ」 「何故だ?」 タリブが問いかけた。 「アンタが、俺と契約してくれたからだ。それ以外に、何がある?」 バリーの顔を見たタリブが、笑みを浮かべた。
バリーはクルーエルを、タリブを始めムジャヒディン達に紹介すると、次回納入分を三ヵ月後に入れると約束し、迎えに来たMi-17でアメリカへの帰路へ着いた。 「タリブに聞いたのか?例の在り処は?」 機内でクルーエルが言った。バリーはNOと応える。 「俺は、KGBやCIAがやるような無理強いはしない。ビジネスマンとして、タリブの信用を勝ち取るまでだ」 バリーはシガーケースから煙草を取り出し、口にくわえた。 「あれは、上手くいったか?」 そう言うと、くわえた煙草に火を点けた。 「ああ。後は、作戦を実行するだけだ」 クルーエルが応える。バリーは吸い込んだ煙草の煙を、ゆっくりと吐いた。 「さあ、高みの見物といくか・・・」
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