流暢な英語で、その男が言った。 「それは失礼した。アンタが、シール・タリブか?」 バリーは、その瞳を見る。男は獲物を見つけたときの、野獣のような瞳を持っていた。 「お前のことは、コルボン・アリから聞いている」 目の前に立っている、この男が、捜していたシール・タリブである。反政府勢力・ムジャヒディンのリーダーだった。 「そりゃ、よかった」
バリーは、彼らと共にカイバル峠のキャンプへ入った。 彼らをまだ山賊と思っていた通訳の男は、始終震え上がっていたが、徐々に彼らに馴染んでいった。 峠のキャンプに着くと、幾つかのテントがあり、暴動によって家を追われた人たちが、難民となって身を寄せ合っていた。 バリーは地面に敷かれた布の上に招かれ、そこに座った。目の前には、シール・タリブが座っている。周りにムジャヒディンの男たちも、腰を下ろした。隣に、雇った通訳が座る。若いムジャヒディンが、男たちに何かを配っていた。バリーの目の前にも、それが配られる。 「チャイだ。飲め」 タリブが低い声で、それを勧めた。一口飲むと、脳天に突き刺さるような甘味が来た。だが、うまい。幼い頃、ミシシッピーでマーサがよく作っていたアップル・サイダーの甘さに似ていた。 「気に入ったか?」 「うまい」 バリーの顔を見たタリブが、満足げな顔を見せた。 「早速だが、アリに話した武器は、すぐに調達出来るのか?」 タリブの言葉に、周りに座っていた数人のムジャヒディン達が一斉にバリーの顔を見た。 「その前に、アンタに聞きたいことがある」 バリーが話を切り返した。 「アンタ達の、これからの展望を教えてくれ。何故、戦うのかを」 「それを、お前に言う必要があるのか?」 バリーはタリブの眼を見据えた。 「当然だ。俺は、戦いに負ける奴に、武器は売らない」 タリブも、バリーの眼を見返した。その真摯な瞳に、タリブも真情を吐露した。 「現政権は我が国の伝統を軽視し、我々の国土に、混乱を起こそうとしている。神の名において、奴らを追い出す!」 「聖戦、ジハードか」 「そうだ」 タリブの言葉に、バリーは持って来たブリーフケースを開け、コルボン・アリに話したことを、もう一度彼らに説明した。 「ここまでは、すぐに用意できる。だが、この部分から先は少し時間がかかる」 バリーがそう言うと、タリブは他のムジャヒディンと顔を見合わせた。 「すぐ用意できる分だが・・・いつぐらいに入れられそうだ?」 「そうだな・・・」 バリーは腕時計を見た。まだ、午前中の11時を回ったところだ。 「一度、電話をかけさせて欲しいんだが」 その地点から電話を掛けるには、車で二時間ほど走った麓の村に行く必要があった。タリブは、若いムジャヒディンを呼ぶとパシュトゥン語で何かを話した。 「こいつが、麓の村まで案内する」 案内兼、自分がKGBに密告しないかの監視役だろう。バリーは、その若いムジャヒディンに、自分の電話の内容を聞かせるため、自分が雇った通訳も連れて行った。 「すぐ、戻ってくる」
夕方、バリーは電話から戻った。案内兼、監視役で付いてきた若いムジャヒディンはタリブに何かを話し、その場を下がった。表情を変えないまま、バリーを見る。バリーの電話で、KGBへの密告も無く、武器調達のみの内容だったことを報告したようだ。 「タウバーと言ったな。今日は、ここで泊まっていくといい」
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