マーサに教会に戻り、急ぎ抗生物質を持ってくると告げタウバー邸を後にすると、スピラーンは教会に向かった。 激しく揺れる車の中は夏の日差しで焼けるように暑くなっていく。スピラーンは車の窓を開けるために、ノブを回した。外から土と緑の匂いが入り込んでくる。心地よい匂いだった。 その瞬間、目の前に閃光が走り、同時に何かが見えた。 スピラーンの鼓動が高鳴り、急に息苦しくなる。堪らず胸を押さえ、急ブレーキを踏み込んだ。 「父さん!」 再び目の前に閃光が走り、また何かが見えた。 それは幼少の頃に、失業した父親から絶えず暴力を受けていた忌まわしい記憶が、閃光となって蘇っていたのだった。
教会に戻る頃には、陽が傾き始めていた。車を停め、中に入るとロレーナが狭い教会の中を掃除している。 「早かったのね」 汗まみれになりながら、ロレーナは屈託のない笑顔を見せる。スピラーンは妻である彼女に見惚れた。そして、何も言わず彼女を抱き寄せた。 「どうしたの?」 抱きしめるスピラーンの腕に少しの力が入る。何かを感じ取ったロレーナは静かに、待ち続けた。
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