物事には、事の発端となる起因、それを引き起こした原因、そしてその中に存在する“真因”がある。 “CENTAC”が狙っているとしていたのが、黄金の三日月地帯(ゴールデン・クレセント)と呼ばれるアフガニスタンの麻薬地帯だと、テッド・オーケンフォールドが言っていた。 だが、それは誰でも知り得る情報だった。 バリーが感じていた“違和感”、“何かの意図”とは、“CENTAC”の本当の狙いが、何か別にあると考えていた。 バリーはアフガニスタンの事前調査に、5ヶ月を費やした。アフガンに関する資料を徹底的に調べ上げ、導き出した答えが、ウラニウムだった。 この周辺には、広大なウラン鉱床が眠っていると、数人の地質学者が推測している。アフガニスタンの北東にある、タジキスタン、東にあるモンゴルに至っては、1950年にソ連がウランの探鉱を開始していた。 勿論、麻薬も必要ではあったが、恐らくそれは“ブラフ”の可能性が高い。最終的に選択を迫られた場合は、彼らはウランを選ぶだろう。 バリーはそう考えた。 ISIで調査を依頼し、バリーはアフガニスタンに駐留する、KGBの存在も探り当てていた。 ソ連国家保安委員会・KGB第一総局(PGU)イリーガル部門を扱うS局のユーリ・ボリソヴィチ・ブリュハノフ中佐、第154特殊任務支隊・第15旅団(スペツナズ)に所属していたウラジミール・イリイチ・アノヒン大尉。二人はアフガニスタン攻略の為の、尖鋭部隊だった。そして、この二人との接触に成功する。
アフガニスタンに現地入りし、バリーは確信したのだ。
起因は現政権に対する不満からの暴動。ソ連がそれを鎮圧する為の、“介入”という形の“侵攻”。アメリカは侵攻に反抗するため、反政府勢力への援助。 その原因は、両者共に、世界最大といわれる麻薬地帯の確保。だが、それはあくまで目に見えるものだった。その中に潜む、真の原因である真因こそが、このウランだった。
ブリュハノフと、バリーはウラン取引の商談に入った。 探鉱から、採掘、タジキスタンへの運搬までを、バリーの商社が請け負うというものだった。だが、紙面での契約書も何も無い状態で取り交わした契約だった。ブリュハノフは、まだ自分を信用していない。一刻も早く、シール・タリブに会う必要があると、バリーは考えた。 翌日、警察署を出たバリーは、ホテルへ戻り、ロビーの公衆電話から、クルーエルにコレクトコールで連絡を取った。シカゴにある事務所とは、全く別の連絡先である。 「そっちは、上手くいってるか?」 バリーが言った。 「上々だ。あんたの思惑通りに動いている」 クルーエルが応えた。 「ガーツに探りを入れてみたが、奴さんもターゲットを捜しているようだ」 やはり、CIAもタリブを捜していたのだ。クルーエルが続ける。 「あんたの方は、上手くいってるのか?」 「ああ、問題ない。ただ・・・」 「ただ・・・何だ?」 バリーは腫れている左の頬に手を当て、眉間にしわを寄せた。 「奥歯が、痛い・・・」
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