アラカン山を越え、舗装されていない褐色の道路を、砂煙を上げながら進み、目的地のディシュクールへ着いたのは、さらに三日後のことだった。パキスタンとアフガニスタンの国境付近にある、小さな町だ。町に入る前に、荒涼とした褐色の大地に広がる、一面のケシ畑で停まった。 バリーは濃くなった自分の髭を触りながら、車の外へ出た。 この辺りは水が豊富だが、土地が痩せていて、玉ねぎもジャガイモも上手く育たないとシェイブが言った。変わりに痩せている土地でも、簡単に育てることが出来、外貨も稼げるということで、このケシが育てられている。 畑の周りには、ライフルを携えている男たちがいた。ケシ畑を守っている見張りだろう。 アリに案内され、バリー達は畑の真ん中にあった小屋に入った。 小屋の中には、数人のアフガン帽とパトゥーを纏った男たちがいる。アリは彼らに何かを話すが、彼らは首を横に振っていた。 「リーダーのシール・タリブが不在らしい」 シェイブを介して、アリが言った。バリーはシール・タリブの所在を聞くが、今は四日前から、身を隠しているという。 「彼は、KGBに命を狙われているそうだ」 ダウドの民主化政策に反対し、暴動を起こしたリーダー、シール・タリブがKGBに命を狙われるのは、当然の話だった。彼は民衆を扇動し、暴動を起こしていたのだから。 だが、バリーは何か言いようの無い違和感を覚えた。 KGBは、タリブのバックにはCIAがいると睨んでいるにせよ、何かがおかしいとバリーは思っていた。
バリーはシェイブを介し、リーダー不在のままだが、武器取引の商談に入った。 アリは、「強力な武器が欲しい」と言った旨を話した。バリーは手配できる武器の説明に入る。アリを始め、小屋に居たバリーの説明に目を輝かせた。 しかしクロージングの段階で、決裁権のあるタリブが不在の為、取引が成立とまではいかなかった。 アリは、タリブと連絡が取れ次第、バリーに連絡すると言った。 「残念だったな」 シェイブが言った。 「今回は、市場調査のみだ。また、出直すよ」 バリーが、そう応える。 要望する武器、輸出ルートが確認できただけでも、今回の調査は成功と言えた。恐らく、ソ連が動くのは、もう少し先になるだろう。バリーは、そう考えた。KGBは、“何か”を調べている。“CENTAC”が狙っているとする、麻薬では無い、“何か”を・・・。
バリーとクルーエルは、シェイブの車でペシャワールへ戻り、そこでシェイブと別れた。 「デイビッド、お前は先にアメリカへ戻れ」 ホテルに入り、バリーの言葉にクルーエルが驚いていた。 「何故だ?」 「お前に、やってもらいたいことがある」 バリーが手配した車の中で、彼はクルーエルに何かを説明した。 「出来るか?」 煙草を吸いながら、バリーは笑みを浮かべた。 「任せてくれ」 クルーエルが応えた。 翌日、彼はペシャワールからアメリカへ帰国する。バリーはそこで通訳とボディーガードを雇い、アフガニスタン、カブールへ向かった。
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