イギリスの植民地であったアフガニスタンは、1919年三度に渡る戦いの末、独立を果たすが、1973年に、旧王族であったダウドが、クーデターを起こして国王を追放し、共和制を導入して自ら大統領に就任した。
カブールから東に90マイルへ行ったところに、ナガンハール州ジャララバードという東部最大の街があった。そこへ入ったのは、カブールから車で約7時間後のことだった。 ガイドに案内され、ホテルで一泊し、翌日、市内でバリーはある男と落ち合う予定だった。バリーとクルーエルのみで赴き、待ち合わせのレストランへ入った。 レストランに入り、バリーは店内を見渡す。店内には、パトゥーを纏った者は一人もおらず、外国人か東洋の富豪しかいない。その中で、黒々とした髭を生やした、体格の良い男がバリーに近寄ってきた。 「酒は飲めるかな?」 バリーがその男に訊ねた。 「この店では、コニャックのみだ」 男が、そう応える。 「では、ビールは駄目なのか?」 バリーのその問いに、男がもう一度応えた。 「バドワイザーを、特別に飲ませてやろう」 それを聞いたバリーは、その男に握手を求めた。 「バリー・タウバーだ」 男は、その握手に応えた。 「ムハンマド・ウル・シェイブだ」 それは落ち合うための、合言葉だった。 バリーはクルーエルに、その男・ムハンマド・ウル・シェイブを紹介した。彼はパキスタン軍統合情報局・ISIの局員だった。彼は、クルーエルとも固い握手を交わし、三人は店の端のテーブルに座った。 「で、国内はどんな状況だ?」 バリーがシェイブに言った。 「ダウド政権が、土地改革や女性解放政策を打ち出して、保守派は猛反発さ。各地で、暴動が起き始めている」 シェイブは続けた。 「ダウドは、暴動を武力で鎮圧している。どうも、死者が出ているようだ」 確実に、“火種”は起き始めていた。恐らく“暴動”はCIAが扇動し、手を打ったものだろう。 「どうだ、“食品”の需要は高いか?」 バリーが言った。その言葉に、シェイブが頷く。 国王を追放したダウドは、民主化政策を打ち出してはいたが、彼は元々共産寄りであった。現政権の影には、ソ連・KGBの影が確実に存在している。彼らの目的も、CIAと同じであろう。 「いずれ、ソ連が動くな・・・」 バリーが生え始めた無精髭を、触りながら呟いた。その為に、各地で起こった、暴動という“火種”に、武器という“油”を注ぐ必要がある。武器を手にした者たちに、武装蜂起させるのだ。 「では、彼らに会わせてくれ」 そう言うと、三人はテーブルを立ち、レストランを出た。
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