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作品名:サイレンス 作者:ぴきにん

第173回   173
イギリスの植民地であったアフガニスタンは、1919年三度に渡る戦いの末、独立を果たすが、1973年に、旧王族であったダウドが、クーデターを起こして国王を追放し、共和制を導入して自ら大統領に就任した。

カブールから東に90マイルへ行ったところに、ナガンハール州ジャララバードという東部最大の街があった。そこへ入ったのは、カブールから車で約7時間後のことだった。
ガイドに案内され、ホテルで一泊し、翌日、市内でバリーはある男と落ち合う予定だった。バリーとクルーエルのみで赴き、待ち合わせのレストランへ入った。
レストランに入り、バリーは店内を見渡す。店内には、パトゥーを纏った者は一人もおらず、外国人か東洋の富豪しかいない。その中で、黒々とした髭を生やした、体格の良い男がバリーに近寄ってきた。
「酒は飲めるかな?」
バリーがその男に訊ねた。
「この店では、コニャックのみだ」
男が、そう応える。
「では、ビールは駄目なのか?」
バリーのその問いに、男がもう一度応えた。
「バドワイザーを、特別に飲ませてやろう」
それを聞いたバリーは、その男に握手を求めた。
「バリー・タウバーだ」
男は、その握手に応えた。
「ムハンマド・ウル・シェイブだ」
それは落ち合うための、合言葉だった。
バリーはクルーエルに、その男・ムハンマド・ウル・シェイブを紹介した。彼はパキスタン軍統合情報局・ISIの局員だった。彼は、クルーエルとも固い握手を交わし、三人は店の端のテーブルに座った。
「で、国内はどんな状況だ?」
バリーがシェイブに言った。
「ダウド政権が、土地改革や女性解放政策を打ち出して、保守派は猛反発さ。各地で、暴動が起き始めている」
シェイブは続けた。
「ダウドは、暴動を武力で鎮圧している。どうも、死者が出ているようだ」
確実に、“火種”は起き始めていた。恐らく“暴動”はCIAが扇動し、手を打ったものだろう。
「どうだ、“食品”の需要は高いか?」
バリーが言った。その言葉に、シェイブが頷く。
国王を追放したダウドは、民主化政策を打ち出してはいたが、彼は元々共産寄りであった。現政権の影には、ソ連・KGBの影が確実に存在している。彼らの目的も、CIAと同じであろう。
「いずれ、ソ連が動くな・・・」
バリーが生え始めた無精髭を、触りながら呟いた。その為に、各地で起こった、暴動という“火種”に、武器という“油”を注ぐ必要がある。武器を手にした者たちに、武装蜂起させるのだ。
「では、彼らに会わせてくれ」
そう言うと、三人はテーブルを立ち、レストランを出た。


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