「そうだ」 テッドが頷いた。 不穏な空気を漂わせているレバノンの実情では、PLOが関わっている以上、アメリカが何らかの形で介入の可能性はあった。だが、この点では軍事介入とまでは行かず、武器輸出のみに留まるだろう。 問題は、イラン・イラクだった。イランの国王、現・パーレビ政権が独裁の様相を呈しており、ホメイニを始めとした反体制派の動きが活発化している。ここにもアメリカは将来的に介入するであろう動きがあった。だが、この時点ではまだ“火種”に過ぎない。恐らくCIAは“火種”に風を起こしている最中だろう。ここの狙いは石油だった。 やはり、狙うはアフガニスタンにある。 ここには“黄金の三日月地帯”(ゴールデン・クレセント)と呼ばれる世界最大の麻薬・覚醒剤の密造地帯があった。 しかし、バリーには何か引っかかるものがあった。それは何かは分からないが、何故かこの状況に、何らかの“意図”を感じていた。 「あとは、確証を得るだけだな」 バリーが言った。 「この情報を、どう使うかは、君次第だ」 テッドが、そう返した。 「テッド・・・と言ったな。これが“真実”だとしたら、あんたは相当なレベルの情報にアクセス出来る権限を持っているようだ。情報部の人間か?」 「そんなところだな・・・」 バリーは、消そうとしていた煙草の手を止めた。 「すまない。野暮なことを聞いたな」 そう言うと、吸っていた煙草の火を灰皿に押し付ける。 「いいさ。恐らく、君とは近い将来、必ず会うことになるだろうからな」 「楽しみにしてるよ」 テッド・オーケンフォールドが立ち上がる。 「そうだ、もう一つ、面白い話を教えてやろう」 彼は、背を向けたまま続けた。 「これからの取引(トレード)は、石油ではない・・・」 バリーは、テッドがいる背後に顔を向ける。 「これからは“エコロジー”が、主要トレードになる・・・」 「エコロジー・・・」 ヨーロッパを中心に広がっていた反核運動が、バリーの脳裏に浮かんだ。だが、この場合は“エネルギー”としての意味だ。 「それは、また別の“真実”だ・・・」 そう言うと、テッド・オーケンフォールドは、その場を去っていった。
1975年5月 シカゴ
高い軋む音を出しながら、クルーエルが階段を登ってきた。ドアを開けると、デスクの上で、ウォール・ストリート・ジャーナルを広げたバリーが電話で喋っている。 クルーエルは、ソファで煙草を吸っていたシンディに声をかけた。 「何の電話だ?」 シンディは自分は関係ないという仕草をした。やがて電話を切ると、バリーが待ちかねたようにシガレットケースから煙草を取り出した。 「来たか、デイビッド」 そう言うと、煙草を取り出し、口にくわえる。 「何の電話だったんだ?」 クルーエルが言った。バリーは眉間にしわを寄せ、煙草に火を点ける。 「不動産に投資したんだ。会社の資産を運用しないとな・・・。従業員の給料も払ってやれん」 バリーが赤のボールペンを耳にかける。 「で、儲かったのか?」 クルーエルの言葉に、バリーが笑みを浮かべた。 「経費を引いて、高級ステーキを向こう60年は食えるくらいはな」
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