デイビッド・クルーエルを仲間に迎える1ヶ月前、バリーは「タウバー商会」を立ち上げた直後、武器セールスの為、レバノン・首都ベイルートを訪れていた。 彼はホテル・アレクサンドレのカフェテラスに座り、テラスから一望できる地中海を眺めながら、レバノンぶどう蒸留酒である“クサラック”を飲んでいた。
地中海を臨む“中東のパリ”と呼ばれたこの街は、レバノン最大の商業都市で、金融の街でもあった。 「ブラック・セプテンバー事件」によってヨルダンを追い出されたPLO(パレスチナ解放機構)を、同じアラブ人という理由でレバノンが受け入れたものの、レバノンは彼らを目の上のこぶと見ていた。 バリーは、レバノンにおける不穏な空気を察知し、自国の軍隊よりも強力な力を持つパレスチナ難民・PLOに対し、強い懸念を示していたマロン派の幹部に接触していた。彼等は民兵を組織し、いずれ衝突するであろうPLOとの戦いに備えて、銃火器を手に入れようとしていたのだった。 武器商人として、初の商談が成功しようとしていたそのとき、バリーの下に一通の手紙が送られてきた。差出人は、不明。封を開けると、銀のロケットと、一枚の手紙が入っている。ロケットのケースを開けると、“何か”が入っていた。それはマイクロ・フィルムだった。ルーペを使い、一枚ずつ内容を読み込んでみた。 バリーは、その内容に驚愕する。だが、その内容には“確証”が無い。 中に同封されていた、手紙を見た。 「ホテル・アレクサンドレのカフェテラスで、14時」とのみ、書かれていた。
バリーはネクタイを緩め、もう一度クサラックを口に流し込む。腕時計を見ると、時計の針が丁度12を指した。手紙に書かれていた、時間である。 その時、真後ろの席に気配がした。誰かがその席に腰を沈める。ウエイターにコーヒーを頼んでいた。 バリーは煙草をくわえ、火を点けた。煙を吸い込み、ゆっくりと吐き出したとき、真後ろに座った“男”が振り返らないまま、声をかけてきた。 「君が、バリー・タウバーだね」 男の話し方に特徴があった。イギリス訛りだ。 「そういうあんたは、俺に“ロケット”を送った“送り主”か?」 「ああ。気に入って、くれたかな?」 バリーも、振り返らなかった。視線は、地中海に向いている。 「その前に、あんたは誰だ?」 ウエイターが、男にコーヒーを持ってきた。彼はそのコーヒーを口に流すと、コーヒーカップをテーブルに置いた。 「俺の名は、テッド・オーケンフォールド」 「オーケンフォールド・・・それが本名だったら、イギリス人か?」 「そんなところだ」 バリーは、首にかけていたオーケンフォールドからの“贈り物”・ロケットを、触っていた。 「あの“プレゼント”は、何故、俺に?」 その男・テッド・オーケンフォールドも煙草を吸ったのか、バリーが吸うラッキーストライクと違うにおいがしていた。 「君が、“デボア”の後継者だからだ」
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