「しまった」 死を悟ったそのとき、後方で鳴り響いた轟音と共に、バリーを狙っていたT-54の主砲の横に、小さな穴が開いた。直後に、T-54の内部が爆発する。 バリーは後方を見た。 「ホア!」 そこには、ラハティL-39対戦車銃を伏せ撃ちしたホアがいた。彼はもう一機後方に着いていたT-54を狙っている。即座に理解したバリーは、ディエンをM551から引きずり出すと、砲塔から飛び降りた。 もう一度、ラハティの轟音が鳴り響く。その弾道は見事に、もう一機後方のT-54の装甲を貫いた。それを見た第10歩兵師団は、一斉に後方へ退却する。 「タウバー、こっちだ!」 ラハティを肩に背負ったホアが声を上げた。1号線沿いに退却していく第10歩兵師団とは別に、ホアは道路を反れ、ジャングルに入った。 「どこへ行く!?」 ディエンが叫ぶ。 「あんたを救出に来たんだ!一緒に来てもらう!」 バリーは彼の襟首を掴んだ。 「駄目だ!隊に・・・」 彼のみぞおちに当身を繰り出し、気絶させた。その身体を担ぎ上げる。バリーは後方に就いたクルーエルを見た。彼は追ってくる北ベトナム兵の追撃を防いでいる。先頭を走っていたホアも、背中に担いでいたM16で応戦する。時間は、既に23日の陽も暮れようとしていた。夜が来れば、暗闇に乗じて逃げられる。 そして、三人と気絶したディエンは、北ベトナム軍の追撃を逃れた。 1号線沿いにジャングルを西へ進み、ビエンホア・フロントに到着したのは、翌日24日、明け方の3時だった。 「とにかく、疲れた!」 クルーエルが言った。サイゴンを出て、一睡もせず24時間が経っていたのだ。バリーは最終防衛線であるビエンホア・フロントの後方、ロング・ビン・ベースまで下がると、基地の中で仮眠を取らせてもらうことにした。ディエンも気絶したまま、まだ目を覚まさない。おそらく彼は、極度の疲労によってそのまま眠ってしまったのだろう。基地内にあったジープにもたれながら、クルーエルがM16を抱えたまま、仮眠を取った。ホアも仮眠の体勢に入る。 「ホア」 バリーが言った。 「奥さんは、大丈夫なのか?」 「無事、タンソンニュットから飛び立ったよ。“ヤミ”の脱出旅客機なんか使わなくてもな」 出国人数が混乱により把握できなかった南ベトナムは、“ヤミ”の脱出旅客機を雇った。しかし、混乱により、出国許可証を持っていなかったベトナム人は、法外な賄賂を掴ませなければならなかったのである。 「お前が待ってきた出国許可証で、難なくパスさ」 ホアが、そう応えた。 「何故、戻ってきたんだ」 バリーはホアの眼を見た。ホアも、バリーの透き通った水色の瞳を見た。 「また、お前は俺に、助けを求めると思ったからだ・・・」 そう言うと、ホアは少年のような笑みを浮かべた。バリーはホアに、握手を求めた。 「ありがとう、助かったよ・・・」 ホアも、それに応えた。
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