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作品名:サイレンス 作者:ぴきにん

第164回   164
ベトミン(ベトナム独立同盟)の大戦略家・グエン・フォー・ザップ将軍は、中部高原北部は、インドシナ半島攻略の際の要となる、と言った。北部と南部を結ぶ理想的な道路網、海岸地帯へ電撃作戦をかけるのに、重要な拠点となるからだ。
南ベトナム、グエン・バン・チュー大統領は、中部高原ダルラク省バンメトートは要衝であるとしていたが、北ベトナム軍の大攻勢の末、兵力を温存させる為、「戦略的」撤退をかけ、再度防衛線を張り、そこで迎撃すると言った。
だが、ここでの「戦略的」撤退は、“崩壊”を決定付けるものであった。
このバンメトートが陥落したために、その後ダナン・ユエ・クアンガイ・コンツム・プレークと次々と陥落していったのである。
「北部軽減・南部重点」という目標を掲げた北ベトナム軍の大攻勢の前に、支援者を失い、疲弊した南ベトナム軍は、首都・サイゴンへと追い込まれていった。

バリーとクルーエルは、難民がサイゴンへと向かう波を遡り、足止めを食らっている第10歩兵師団の元へ向かうため、1号線を東へと進んだ。しかし難民の波に押され、ジープでは中々前に進むことが出来なかった。
二人はジープを放棄し、徒歩で戦地に向かう。途中で難民の波が無くなり、前方で砲弾や銃声が聞こえてきた。
二人は身を潜めながら、音のする方へ向かう。
1号線と20号線が交差する地点に来ると、第10歩兵師団が、北ベトナム軍320師団の猛攻を受けていた。
第10歩兵師団は20号線と交差する地点で、M551シェリダン戦車5機を盾に局地戦を展開していた。
「あれじゃ、もたねえ!」
クルーエルが言った。
明らかに、第10歩兵師団の数と、北ベトナム軍の数が違っていた。それを第10歩兵師団は真正面から攻撃を受けていたのだった。このまま、この場所に留まっていては、全滅は時間の問題である。
砲弾と銃弾が飛び交う中、バリーとクルーエルは南ベトナム軍の兵士がいる部隊の中に入った。バリーはまた片言のベトナム語で、北ベトナム軍に応戦しながら「ディエン少佐はどこか?」と尋ね歩いた。
すると、兵士の一人が「M551の中にいる!」と、彼が搭乗しているM551を指差した。
「ホーリィ・シット(なんてこった)・・・」
クルーエルが泣き言を言う。それも無理なかった。ディエン少佐が搭乗していたM551は、北ベトナム軍の真正面に対峙していたのだ。
バリーは後方に停めてあったジープへ走り、無線機を取ると、ディエン少佐に向けて英語で叫んだ。
「ディエン少佐、後退しろ!このままじゃ、全滅するぞ!」
その声に、即座に英語で反応した者がいた。
「私の名を呼ぶのは、誰だ!?」
「数が違いすぎる!真正面から迎撃するのは、危険だ!ビエンホアへ戻れ!」
彼が搭乗しているM551の真正面から、6機のソ連製戦車・T-54が迫っている。
「6機といえども、奴らは1号線を並んで来るんだ!1機ずつ、迎撃できる!」
ディエンが叫んだ。だが、20号線の北と南からも北ベトナム軍が来ていた。
「挟撃されるぞ!」
バリーが叫んだ瞬間、北にいたM551が、T-54の攻撃を受け、大破する。
「クソ!」
その攻撃をきっかけに、敵の歩兵部隊が突撃をかけてきた。バリーはディエンのM551へ走る。
「援護しろ!」
バリーがクルーエルに叫ぶ。突撃を始めた敵を撃ちながら、バリーはM551の砲塔に登り、キューポラのハッチを手で開ける。
「出ろ!ここは、もう駄目だ!」
バリーがベトナム語で叫んだ。その鬼気迫る声に、運転士と上部の砲撃手が逃げる。
「少佐、これを捨ててビエンホアまで後退するんだ!」
中で、ディエン少佐が見上げる。バリーは手を差し出した。その瞬間、バリーはその“殺気”に気付いた。真正面にいたT-54の主砲が、バリーとディエンが乗ったM551を狙っていたのだ。


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