4月22日。自分の部屋で髭を剃っていたバリーの下に、ホアから連絡が入った。 救出する“ターゲット”の情報が入り、明日にでもビエンホア・フロントに到着するとのことだった。 バリーはクルーエルを呼び、明朝に出発すると告げた。
4月23日4:00。 サイゴンの街は戒厳令が敷かれており、夜間は外出禁止令が出ていた。バリーとクルーエルは、巡回パトロールをしている南ベトナム軍のサーチライトを潜り抜け、徒歩でサイゴンの街を出る。 このころから、サイゴン市外には南下した難民が増え始めていた。その難民たちの群集を掻い潜り、769号線を東に行く河と交差する橋に出た。 そこで、一台のジープが止まっている。 「待たせたな!」 バリーがジープに座っていたホアに声をかけた。ホアは早速、後部座席から装備を出す。バリーとクルーエルはファティーグではなく、二人とも黒のシャツにジーンズという、いでたちだった。軍人ではなく、二人は民間人と分かるように服装で区別をつけるためである。 防弾ベスト、右の大腿部にホルダーを着け、バックパックを装着。護身用で持っていたP210を入れる。弾丸を確認し、腰にサバイバルナイフ、M16二挺とM19一挺を確認。 「装備は問題ない。助かったよ、ホア」 バリーが言った。ホアは、何も言わずバリーを見上げている。 「無事、脱出しろよ」 バリーはホアに握手を求めた。 「タウバー、お前はまだ“デボア”のところにいるのか?」 真剣な眼差しのホアとは対照的に、バリーは終始笑みを浮かべていた。 「もう、じいさんとは決別したよ」 「だったら、何故ここにいるんだ?」 バリーは煙草をくわえた。 「戦争なんてもんは、やめちまえ」 ホアが言った。バリーはくわえた煙草に、火を点ける。 「五ヶ月前に、妹が殺されたんだ」 ホアもクルーエルも、バリーの顔を見た。彼は、まるで他人事のように言った。 「復讐の為に・・・?」 ホアが言う。 「復讐なんてしても、妹は喜ばないだろう」 「じゃ、何故この仕事をしてるんだ?」 バリーは煙を吐き出しながら、まだ笑みを浮かべている。 「こんなクソ世界を造った“歪み”を捜す為だ」 その言葉を、ホアも隣で聞いていたクルーエルも理解できなかった。バリーはジープに乗り込むと、もう一度ホアに握手を求めた。ホアは、それに応える。 「元気でな」 バリーの言葉に、ホアは何も応えなかった。ただ、彼らを見送った。クルーエルは、運転しているバリーの横顔を見た。彼は煙草を吸いながら、飄々としている。 「俺の顔なんざ見るより、ちゃんとナビしてくれよな。でないと、ビエンホアには着かんぞ!」 バリーは笑いながら、クルーエルに言った。
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