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作品名:サイレンス 作者:ぴきにん

第162回   162
4月22日。自分の部屋で髭を剃っていたバリーの下に、ホアから連絡が入った。
救出する“ターゲット”の情報が入り、明日にでもビエンホア・フロントに到着するとのことだった。
バリーはクルーエルを呼び、明朝に出発すると告げた。

4月23日4:00。
サイゴンの街は戒厳令が敷かれており、夜間は外出禁止令が出ていた。バリーとクルーエルは、巡回パトロールをしている南ベトナム軍のサーチライトを潜り抜け、徒歩でサイゴンの街を出る。
このころから、サイゴン市外には南下した難民が増え始めていた。その難民たちの群集を掻い潜り、769号線を東に行く河と交差する橋に出た。
そこで、一台のジープが止まっている。
「待たせたな!」
バリーがジープに座っていたホアに声をかけた。ホアは早速、後部座席から装備を出す。バリーとクルーエルはファティーグではなく、二人とも黒のシャツにジーンズという、いでたちだった。軍人ではなく、二人は民間人と分かるように服装で区別をつけるためである。
防弾ベスト、右の大腿部にホルダーを着け、バックパックを装着。護身用で持っていたP210を入れる。弾丸を確認し、腰にサバイバルナイフ、M16二挺とM19一挺を確認。
「装備は問題ない。助かったよ、ホア」
バリーが言った。ホアは、何も言わずバリーを見上げている。
「無事、脱出しろよ」
バリーはホアに握手を求めた。
「タウバー、お前はまだ“デボア”のところにいるのか?」
真剣な眼差しのホアとは対照的に、バリーは終始笑みを浮かべていた。
「もう、じいさんとは決別したよ」
「だったら、何故ここにいるんだ?」
バリーは煙草をくわえた。
「戦争なんてもんは、やめちまえ」
ホアが言った。バリーはくわえた煙草に、火を点ける。
「五ヶ月前に、妹が殺されたんだ」
ホアもクルーエルも、バリーの顔を見た。彼は、まるで他人事のように言った。
「復讐の為に・・・?」
ホアが言う。
「復讐なんてしても、妹は喜ばないだろう」
「じゃ、何故この仕事をしてるんだ?」
バリーは煙を吐き出しながら、まだ笑みを浮かべている。
「こんなクソ世界を造った“歪み”を捜す為だ」
その言葉を、ホアも隣で聞いていたクルーエルも理解できなかった。バリーはジープに乗り込むと、もう一度ホアに握手を求めた。ホアは、それに応える。
「元気でな」
バリーの言葉に、ホアは何も応えなかった。ただ、彼らを見送った。クルーエルは、運転しているバリーの横顔を見た。彼は煙草を吸いながら、飄々としている。
「俺の顔なんざ見るより、ちゃんとナビしてくれよな。でないと、ビエンホアには着かんぞ!」
バリーは笑いながら、クルーエルに言った。


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