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作品名:サイレンス 作者:ぴきにん

第160回   160
1973年1月29日、パリ協定、北ベトナムとアメリカによる合意の下、ニクソンは「ベトナム戦争の終戦」を宣言し、その二ヵ月後の3月29日にはベトナム派兵軍の全面撤退が完了する。
絶対的な支援者を失った南ベトナム軍は、衰退の一途を辿り、補給路を回復させた北ベトナム軍に押され、南下した北ベトナム軍はダナンを突破し、首都サイゴンに迫っていた。

3月10日に中部高原ダルラク省の省都バンメトートが陥落し、北ベトナム軍がサイゴン到達まで僅かとなった。バリーが受けた救出作戦予定は6月だったが、急遽予定が繰り上がり、4月の始めにバリーとクルーエルは日本経由でサイゴンに入った。
ネクタイを締めたバリーの肩書きはAPI通信の記者、クルーエルはそのカメラマンである。
人々が街を行き交い、市場も何事も無かったかのように過ごしている。北ベトナム軍が南下すると同時に、大量の難民も南下していると耳にしていたが、予想に反し、サイゴンは平穏そのものだった。
バリーは久々に感じるその暑さに、ワイシャツの腕をまくりあげ、腕時計を見た。サイゴンで待ち合わせている“協力者”に会う為だった。
「で、その“協力者”とは誰なんだ?」
クルーエルが言った。
「お前も、知っている奴だ」
と、煙草の煙を吐き出しながらバリーが応えた。彼はブリーフケースを手に取ると、タクシーを呼んだ。
「ホテル・マジェスティック・サイゴンへ」
バリーがドライバーに行き先を告げる。
ホテル・マジェスティック・サイゴンは1925年に創業し、白亜のコロニアル建築様式で建てられた歴史あるホテルだった。
ホテルに入り、エントランスに入ると様々な人種の記者たちが集まっている。ベトナム戦争が始まって以来、ここは海外の特派員記者たちが利用するホテルとなっていた。
エントランスを抜け、ロビーに入る。記者たちが騒然としているロビーで、背の低いアジア人の男がいた。
バリーはその男に声をかける。
「“ようやく、蓮の花が咲き始めましたね”」
蓮の花はベトナムの国花である。それは、出会う際の合言葉だった。その声に、男が振り返る。その男を見たクルーエルが、思わず驚嘆した。
「お、お前は・・・!」


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