20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:サイレンス 作者:ぴきにん

第156回   156
男が笑みを浮かべた。
「あんた・・・MIA(行方不明者)になったって聞いたぞ。生きてたのか、ルテナン!」
隣に座った男・バリー・タウバーが、クルーエルの肩を掴んだ。
「何とか生きてる」
クルーエルは目に光るものを浮かべながら、バリーに抱きつく。
「良かった!」
「止めろ、俺はそっちの趣味はない」
バリーはクルーエルにMIAとなり、自力で帰還したことを話した。
「ウィルキンソンが何も話さなかったから、てっきり戦死したもんだと思ってた!」
「わかったから、抱きつくのは止せ」
クルーエルは、バリーの姿を改めて見た。
彼はネクタイを締め、スーツを着ている。5年前までの、タイガーファティーグ(迷彩服)を着ていた姿の印象が、全く残っていなかった。
「ところで、何でタイなんかしてるんだ・・・?」
バリーは煙草をくわえ、火を点ける。
「それじゃ、まるでビジネスマンだ・・・」
「そのことで、お前に会いに来たんだ」
そう言うと、バリーは口角を上げた。
「お前の力を借りたい」
「俺の力・・・どういうことだ・・・?」
バリーは財布から名刺を出すと、それをクルーエルに手渡した。
「俺が、始めた仕事だ」
名刺には「食品輸入総合商社・タウバー商会」とある。
「食品・・・輸入総合商社・・・?」
「危険な仕事だ・・・。報酬は弾むぞ」
クルーエルは、ますます頭をひねる。食品を輸入するのに、それほどの危険があるとは思えなかった。
「何の仕事だ?まさか、食品バイヤーとか・・・?」
バリーはその言葉に、笑い声を上げた。
「確かに、“ある意味”食品バイヤーだな」
バリーは手元にあった、ワイルドターキーを飲み干した。そして自信に満ち溢れた眼で、クルーエルを見据える。
「また、“戦場”に戻る。今度は、世界が相手だ」
バリーはそれ以上、何も言わなかった。
彼は1000ドルをクルーエルに手渡し、仕事をするなら準備金、しないのなら酒代にしろと言い残し、アイダホを去った。
クルーエルに、迷いは無かった。
バリーが言う“仕事”が、よく理解できなかったが、今の生活を抜け出す為に、彼はアイダホを出た。

イリノイ州シカゴ

クルーエルは、名刺にあった住所を探していた。シカゴ港を臨む41号線、ノース・レイク・ショア・ドライブから西へ入り、イースト・エルム・ストリートを3ブロック行ったところに、そのビルがあった。そこは1890年代に建てられたゴシック様式の古い物で、今にも崩れ落ちそうな三階建てのビルだった。
道路の路肩に車を停め、ビルの狭いエントランスに入り、階段を登る。階段を登る度、踏み板が甲高い音を出してきしむ。そして、二階のドアに辿り着いた。
ドアの真横に着いていた、呼び鈴を鳴らす。
二度目の呼び鈴を鳴らしたとき、鍵が開き、ドアが開いた。


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 9