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作品名:サイレンス 作者:ぴきにん

第155回   155
デイビッド・クルーエルはベトナムから帰還し、アイダホに戻って3年が経っていた。
彼は農夫だった父親の後を継ぎ、農業を営んでいた。ハイスクールの同級生と結婚し、息子と娘を授かり、幸せな生活を送っていた。
しかし、彼はその生活に空しさを感じていた。
元々妻が妊娠しなければ、ベースボールの選手だった彼はUCLAに進学する予定だった。その為、若かった彼は単調な毎日に嫌気がさし、妻の小言に苦痛を感じ、夢も無く死んでいく自分を恐れた。
そんな時、彼はベトナム戦争に志願することを決意する。
「今の俺は、本当の俺じゃない」
それが、ベトナム戦争に志願する口実として、彼の妻に言った一言だった。無論、妻は反対した。彼が戦死すれば、誰がこの農場を営むのか。子供たちの養育はどうするのか。だが、若かった彼は自分の意見を通した。
1年経ったら、戻ってくる。
そう言ってアイダホを抜けたが、彼は3年も帰らなかった。
彼の妻は、帰還する前に新しい男を作り、子供を連れてアイダホを出た。クルーエルは悲しまなかった。むしろ、彼は喜んだのだ。両肩に乗っていた重荷が、跡形も無く消えたのだ。
ベトナム戦争に志願し、その身体能力の高さと、処理能力の高さから、彼は第4師団LRPに所属し、バリー・タウバー率いるSOGに入った。
71年にラオス侵攻作戦に参加し、彼は激戦を生き抜いた。精も根も尽き果てた彼に待っていたのは、帰還兵に対する人々の“冷酷”な眼だった。
彼は歓迎されることも無く、帰還兵というだけで蔑まれ、軍服に唾を吐かれた。
クルーエルは、この現実に戸惑った。そしてそれは、憎しみへと変わっていった。その憎しみは、自分へと向けられた。
夜、眠れない苦しみから、酒に溺れた。
働く気力も無くなり、収入が滞った上、受け継いだ農場を手放すことになった。
彼の両親も他界しており、彼は財産も家族も、無くしてしまったのだ。
そんな時のことだった。

その日も、いつものバーで朝から飲んでいた。カウンターには、二本のボトルが空になっている。
「おいデイビッド、いい加減金も無いなら、帰ってくれ!」
顔馴染みのバーテンの男が、怒声を上げる。
「今日の分くらいは、払える・・・。もう少し、飲ませてくれ・・・」
クルーエルはそれに応えた。
「駄目だ、帰れ!」
その時、カウンターの上に200ドル札をバーテンに渡した男がいた。
「俺が奢ってやる。そいつに、飲ませてやってくれ」
バーテンはその金に頷き、何も言わなくなった。
クルーエルは、隣に座った男を見上げた。アルコールによる眠気で眼が霞んで、その男が見えなかった。眼を凝らし、男を見る。
「あ・・・あんたは・・・!」
「久しぶりだな、デイビッド」


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