ワシントン・グレンウッド教会で、アンジェリアの葬儀を行う予定だった。 まだ夜が明ける前に、遺体が安置されているこの教会に辿り着いた。誰もいないはずの教会に、灯りが点っている。バリーは重厚な扉を、ゆっくりと開けた。 扉を開けると、正面に十字架が掲げられている。その袂に、棺があった。 前へ進むと、静寂の中に自分の足音だけが響いた。次第に棺の中が、見えてくる。 そこに、蝋燭の光に照らし出された、アンジェリアの遺体があった。 彼女は、まるで眠っているかのような、安らかな顔をしている。 そこへ、この教会の神父がバリーの気配を感じ、奥の執務室から出てきた。神父はジョージが捜査の都合で、少し教会を離れているとバリーに告げ、再び執務室へ消えた。 バリーは被っていた野球帽を取ると、アンジェリアの顔を見つめた。
お前は一体何の為に、この世に生を受けたのだろう。今まで辛い思いをしたが、これから幸せになる筈だった。けれど、何故こんなところで、死ななければならないのか。全ては己の驕りが、お前を犠牲にした。
バリーの透き通った水色の瞳から、大粒の涙が零れ落ちる。 「俺も、お前も、こんな世界に生まれなければ・・・」 バリーは冷たくなったアンジェリアの手を握り締めた。 その時、一瞬にして目の前に「あの光景」が甦る。車で恐ろしいほどの睡魔に襲われ、目を閉じた瞬間に現れた「あの光景」だった。 目を開けているときと全く同じ世界だが、人も車も音もない、時間の止まった世界の中で、アンジェリアが目の前で優しく微笑んでいた。 「愛してる」 聞こえなかった筈なのに、一瞬にしてアンジェリアの「声」が、バリーの頭の中で甦った。 あの時、バリーは彼女の「声」を、確かに聞いていたのだ。 「愛してるわ」 彼女は安らかに微笑みながら、バリーに囁いた。 その瞬間、バリーは彼女を、一人の女として愛していたことに気付く。ずっと感じていた「奇妙な孤独」とは、アンジェリアに対する“嫉妬”だったのだ。 「どんな形でも構わない。お前が生きてさえいてくれれば、それだけで良かったんだ」 アンジェリアは、いくら恋焦がれても、この世で決して手に入れることができない“至上の存在”だった。 彼女の遺体にすがって、バリーは嗚咽した。何度も涙が、こみ上げてくる。 目の前の遺体からは、彼女の気配が無かった。彼女は、人形のようだった。 アンジェリアは、死んだ。 バリーはその現実が受け入れられずに、何度も声を押し殺して泣いた。
その姿を、ジョージは教会の扉の傍で、見つめていた。 バリーの、そんな姿を見るのは、初めてだった。ジョージはゆっくりと彼に近付き、その肩を掴む。 バリーはジョージを見た。彼も、大粒の涙を流していた。 「すまない。彼女を、守れなかった・・・」
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