バリーはスーザンから借りたステーションワゴンに自分の荷物を積み、引越しの為コネチカット州ニューヘイヴン、イェールロースクールの学生寮に向い始めた。スーザンに作ってもらったチーズサンドとピーナッツバターサンドを齧りながら、車は95号線に入った。 コネチカット州に入り、ポートチェスターを通り過ぎたところで、バリーは急激な睡魔に襲われた。 窓を開け、外気を車内に取り込むが、全く効かない。すると前方にガソリンスタンドが見えたので、そこで給油と休憩を取ることにした。 ガソリンスタンドの脇に入ったところで、バリーは強烈な眠気に負け、給油の前に仮眠を先に取った。 サイドブレーキを引き、ギアをパーキングに入れると、エンジンを切る前にバリーは座席のシートを倒し、野球帽を深く被り、目を閉じた。 目を閉じた瞬間、バリーはその“奇妙”な光景に混乱した。 目を閉じているはずなのに、目の前に広がる光景は、運転席から見えるハンドルと、フロントガラスから望む95号線の光景だった。 しかし、その光景には不可思議な点が多かった。ハイウェイを走っているはずの車が、一台もいないのだ。しかも、目を閉じるまで晴れていた筈だったのに、外は暗闇の世界だった。まるで、時間が止まっているかのような、異質な世界だった。 その暗闇から、金色に輝く一つの光が現れる。 その光から、一人の女が浮かび上がった。 女は美しい金色の髪を靡かせ、天使のような微笑を浮かべると、何かを言った。 だが、その声は届かない。 女はもう一度、何かを言った。 やはりその声は聞こえなかった。 女は愛しそうにバリーを見つめると、ゆっくりと金色に輝く光の中へ消えていった。 「アンジェリア!」 目を開くと、そこは元の世界だった。目の前にはハンドルがあり、フロントガラスの向こうに広がる光景は、様々な車が行き交う95号線の風景だった。 そして、耳に雑踏が戻ってくる。 バリーは、一瞬で夢を見ていたのだと悟った。だが、夢の中に出てきた女は、確かにアンジェリアだった。 バリーは、不安に駆られた。彼女に、何かが起こったのだと感じた。車を転回させると、NYへ引き返した。
ジョージ・スピラーンは、捜査報告書を作成していた。まだ、勤務が終わるまでに時間がかかりそうだったので、アンジェリアがいる自宅に電話を入れる。 だが、誰も出なかった。少し時間を置いてもう一度電話をかけるが、やはり誰も出なかった。 ジョージは、何故か嫌な予感がした。 普段なら気にも留めないところだったが、何かが気になった。ジョージはコートを手にすると、FBI・HQ(本部)を車で出た。その日に限って、珍しく渋滞に巻き込まれずに、ジョージは一時間もかからず自宅に着いた。 辺りが薄暗くなっているのにも関わらず、窓には灯りが全く点っていなかった。ジョージは呼び鈴を鳴らすが、全く人の気配がなかった。そっとドアのノブに手をかけると、鍵が開いていることに気付く。 身体に、緊張が走った。 腰のホルダーから銃を取り出し、構えながら中へ入った。手前のドアから、一枚ずつ確認していくが、何もない。奥へ進み、リビングに進んだとき、緊張が頂点に達した。 リビングの床に、いくつもの血痕が見つかったのだ。一瞬にして、ジョージの呼吸が乱れた。血痕を追いながら、足音を鳴らさないように、二階へとゆっくり進む。そして二階の寝室を開けたとき、捜査現場では常に沈着冷静だったジョージが、声を上げて取り乱した。 「アンジェリア!」 アンは、ベッドの上で眠るように死んでいた。ジョージは何度もアンの名前を呼ぶが、彼女の身体は冷たくなっていた。
ブロンクスに戻るころには、すっかり陽も沈んでいた。 バリーは“スーザン”の店の前に車を停めると、慌てて店の中へ入った。 「ママ!」 その声に、カウンターにいたスーザンが振り返る。 「バリー、どうしたんだい!?」 バリーは、呼吸を乱しながら、スーザンを見た。 「俺に・・・何か連絡は入ってないか?」 その言葉に、スーザンは思い当たる節があったのか、カウンターの下から綺麗に包装された箱を取り出し、それをバリーに手渡した。 「そういえば今日、小さな男の子が来てね、これをあんたにって・・・」 バリーは包装紙を破り捨てると、箱の蓋を取った。その中身を見た瞬間、バリーの身体が凍りついた。 「な・・・何があったんだい?」 バリーは黙って、その箱をカウンターに置いた。 「これは・・・」 中に入っていたのは、銀色のナイフだった。それを見たとき、スーザンの顔色が強張った。 「ママ、電話借りるよ」 バリーは店の隅に設置したあった電話に手をかけ、ダイヤルを回した。そして何かを話した後、彼は小さな声で呟き、受話器を落とした。 「そんな・・・」
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