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作品名:サイレンス 作者:ぴきにん

第150回   150
中へ入ると、ヘイズは玄関の鍵を閉める。
リビングでアンは、彼にソファを薦めた。
「今、コーヒーを淹れますわ」
アンは、ヘイズの顔を見た。先ほどまで、柔和な笑みを浮かべていたその男が、彼女をじっと見詰めている。その眼光に、アンは恐怖を覚えた。
「残念だが、お前には死んでもらう」
そう言うと、ヘイズはどこからか、銀のナイフを手にした。アンは恐怖のあまり、声が出なかった。ゆっくりと近寄るヘイズから逃れることが出来ず、アンは壁に追い詰められた。
「何故・・・?」
震える声で、アンが声を発する。
「お前が生きている限り、タウバーは動かない」
「バリーが・・・?」
その名を口にした瞬間、先ほどまで感じていた恐怖が、どこかへ消え去った。その一言で、アンは全てを悟った。
「バリーに、手を出さないで・・・」
アンは、その美しいエメラルドのような碧の瞳で、ヘイズを見つめた。彼は、その瞳の美しさに、息を呑んだ。
「彼に手を出さないと約束してくれるのなら、私は喜んで、この命を貴方に差し上げます」
ヘイズは戸惑った。
人間が死の直前に見せる、恐怖と絶望の表情を見るのが好きだったヘイズにとって、彼女の表情は、今までに見たことがないものだった。
その顔に、恐怖を感じているどころか、彼女は安らぎの表情を浮かべていたのだ。
死を直前にした人間が、見せる表情ではなかった。
「分かった・・・。約束を、守ろう・・・」
ヘイズの顔から、鋭さが失せていく。彼は、少年のような穏やかな顔になっていた。それを見たアンは、目を閉じ、十字を切ると、ヘイズの前に跪いた。
ヘイズは、彼女の祈りの姿に見惚れた。
アンジェリアは、この世のものとは思えぬ美しさだった。
「すぐに・・・あの世へ逝ける・・・」
ヘイズはゆっくりとアンジェリアの胸に、銀のナイフを突き刺した。
アンジェリアの目が見開く。彼女の身体が、小刻みに震え始めた。
「大丈夫だ・・・すぐに、死は見える・・・」
彼女の瞳から、一筋の涙が零れ落ちた。
ゆっくりと突き刺したナイフを差し込んでいく。
「ジョージ・・・」
アンは息絶える瞬間、その名を呼んだ。そして、もう一人の名を呼ぶ直前、彼女は息絶えた。
崩れ行くアンの身体を支え、ブロンドの髪を触り、まだ温かい頬に触れた。
「美しい・・・」
ヘイズはアンを抱き上げると、二階へと向かい、寝室のベッドへ寝かせると、胸までシーツを被せた。
彼女が眠るその姿は、まるで天使のようだった。


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