窓から差し込む朝日に耐えきれず、アンはその重い瞼をゆっくりと開いた。 そこはいつもの花が飾ってある自分の部屋の光景と違い、机とそこらじゅうに山のように積み上げられた本とベッドのあるどこか雑然とした部屋だ。そこがバリーの部屋であることに気付いたのは、数分経ってからの事だった。 バリーの姿が見えないことに不安を感じ、上体を起こすと彼女はある異変に気付いた。バリーが魘されながら、床に倒れていたのだ。 「バリー!」 バリーを起こそうとその体に触れた瞬間、彼の体が燃えるように熱くなっていることに気付いた。何度も呼びかけるが、完全に気を失っている。アンは部屋を出て、マーサの名を呼んだ。 「バリーが大変なの!!」 アンの声を聞いたマーサがその巨体を揺らして階段を駆け上がる。 「どうしましたか?」 「凄い熱を出してるの!」 床に倒れているバリーの額に手を当てると、彼女は冷静な表情を崩さずにベッドの上に寝かせた。 「氷枕を作ってきます」 そう言うと、階下に下った。 アンは横向きに寝かされたバリーの顔を、何も言わずに見守った。
彼の呼吸はひどく乱れ、疲れた表情を浮かべている。アンは突然言いようの無い寂しさに襲われ、抑えきれなくなった涙を流し始めた。 「死なないで」 アンはバリーの手を握り締めた。何粒もその手に涙が滴り落ちる。微かな感触に気付いたのか、バリーが力弱く握り返してきた。 「泣くな」 その言葉に安心したのか、アンは声を上げて泣きじゃくった。 「大丈夫だから、泣くんじゃない」 朦朧とした意識の中でも、彼は細心の注意を払った。アンが声を立てて泣いている姿を見れば、あの男は何をするかわからない。ジョナサンはまだアンは重度の学習障害だと思っていたからだ。だが、少しでも自分を庇おうとする感情のあるアンの姿を見れば、大事な妹は自分と同じ目に逢うと直感的にわかっていた。 バリーが七歳の頃からだった。ジョナサンの陰湿な“体罰”が始まったのは。彼はその“体罰”がどういう経緯で始まった記憶が無かったが、気付いた頃には「駄目な息子だ」と母親のミミの前で怒鳴りながらバリーを書斎へ連れ込み、気を失う寸前まで彼を殴り続けるのがジョナサンの日課となっていた。彼に少しでも口答えをすれば、執拗に“体罰”与えられる。時には浴槽に沈められ、溺れかける寸前に引き上げられたり、寝入っていたバリーの顔に枕を押し付けられ、苦しむ彼の腹を殴りつけ、窒息しそうな寸前でその手を緩めたりするのだった。 何度もミミに助けを求めたが、母親は「嘘はだめだ」と言い、彼女は取り合おうとしなかった。 バリーは何故父親のジョナサンが自分をここまで憎むのかがわからなかった。 「お前の目の色が気に入らない」いつもジョナサンが口にしていた言葉だった。
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