バリーはアンの顔を見た。 「ジョージに腹が立ったのなら、あいつにも、今みたいに怒りをぶつけろ」 「そんなことをしたら、ジョージが・・・悲しむわ」 アンの頭を撫でる。バリーは笑みを浮かべた。 「大丈夫だ。むしろ、あいつは自分に怒りをぶつけてくれないことを、悲しんでた」 「・・・本当?」 「ああ」 アンは下を向いた。彼女は、もうバリーに触れられないことを悟った。 「ジョージは、いい男だ。あいつなら、お前の怒りぐらい、全て受け止めてくれるさ」 アンはもう一度、バリーに抱きついた。昔のように、煙草のにおいがしていた。バリーはそれに気付き、彼女を抱きしめる。 「お前の幸せを、願ってる・・・」
朝が訪れ、バリーは車を出すと、ジョージのいるホテルに向かった。 まだ人影がない、朝の通りに車を停めると、バリーはジョージのいる“タワーズ&オクロック”を指さし、アンジェリアの背中を押した。 「あそこで、お前の帰りを待っている男がいる。行ってやれよ」 アンは一歩、二歩と進んだが、その歩みを止める。そして振り返ると、彼女は優しい微笑を浮かべた。 「バリー、またね」 バリーは何も言わず、笑みを浮かべたまま、小さく頷いた。それを見たアンは“タワーズ&オクロック”へ向かうため、もう一度背を向ける。バリーは、それを見送り、彼女がホテルのエントランスに差し掛かったとき、もう一度呼び止めた。 「アンジェリア!」 アンが振り返る。 「元気でな!」 そう言うと、バリーは手を振った。アンもそれに応え、手を振る。そして互いに見つめあった後、アンはホテルに消えていった。
二人の姿を、物陰から見つめる一人の男が立っていた。 男は口元に不敵な笑みを浮かべている。 「ルテナン・・・大切な人間が傍にいると、あんたの鋭敏な感は鈍るんだ・・・」 そう言うと、男は朝霧が立ち込めているNYの街へ、消えていった。
ジョージ・スピラーンはFBIアカデミーを出た後、1年のカリフォルニア勤務を経て、ワシントンD・Cの本部勤務となった。アンジェリアと結婚後、ワシントンD・C、テンレイタウンメトロ駅から北西に伸びるリバー・ロード・ノースウエストへ行き、チェサピーク・ストリート・ノースウエストを西に入ったところに、二人の住んでいる家があった。
アンが、バリーと別れて一週間後のことだった。
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