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作品名:サイレンス 作者:ぴきにん

第148回   148
バリーはアンの顔を見た。
「ジョージに腹が立ったのなら、あいつにも、今みたいに怒りをぶつけろ」
「そんなことをしたら、ジョージが・・・悲しむわ」
アンの頭を撫でる。バリーは笑みを浮かべた。
「大丈夫だ。むしろ、あいつは自分に怒りをぶつけてくれないことを、悲しんでた」
「・・・本当?」
「ああ」
アンは下を向いた。彼女は、もうバリーに触れられないことを悟った。
「ジョージは、いい男だ。あいつなら、お前の怒りぐらい、全て受け止めてくれるさ」
アンはもう一度、バリーに抱きついた。昔のように、煙草のにおいがしていた。バリーはそれに気付き、彼女を抱きしめる。
「お前の幸せを、願ってる・・・」

朝が訪れ、バリーは車を出すと、ジョージのいるホテルに向かった。
まだ人影がない、朝の通りに車を停めると、バリーはジョージのいる“タワーズ&オクロック”を指さし、アンジェリアの背中を押した。
「あそこで、お前の帰りを待っている男がいる。行ってやれよ」
アンは一歩、二歩と進んだが、その歩みを止める。そして振り返ると、彼女は優しい微笑を浮かべた。
「バリー、またね」
バリーは何も言わず、笑みを浮かべたまま、小さく頷いた。それを見たアンは“タワーズ&オクロック”へ向かうため、もう一度背を向ける。バリーは、それを見送り、彼女がホテルのエントランスに差し掛かったとき、もう一度呼び止めた。
「アンジェリア!」
アンが振り返る。
「元気でな!」
そう言うと、バリーは手を振った。アンもそれに応え、手を振る。そして互いに見つめあった後、アンはホテルに消えていった。

二人の姿を、物陰から見つめる一人の男が立っていた。
男は口元に不敵な笑みを浮かべている。
「ルテナン・・・大切な人間が傍にいると、あんたの鋭敏な感は鈍るんだ・・・」
そう言うと、男は朝霧が立ち込めているNYの街へ、消えていった。

ジョージ・スピラーンはFBIアカデミーを出た後、1年のカリフォルニア勤務を経て、ワシントンD・Cの本部勤務となった。アンジェリアと結婚後、ワシントンD・C、テンレイタウンメトロ駅から北西に伸びるリバー・ロード・ノースウエストへ行き、チェサピーク・ストリート・ノースウエストを西に入ったところに、二人の住んでいる家があった。

アンが、バリーと別れて一週間後のことだった。



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