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作品名:サイレンス 作者:ぴきにん

第146回   1974年11月 アメリカ・NY 至上の天使
バリーは、アンジェリアを部屋に招き入れた。法律の本や、辞書、経済学や判例集などが部屋中に積み上げられている。アンは、キッチンに入ったバリーに、問いかけた。
「また、勉強をしているの?」
「ああ。イェールのロースクールへ行くんだ」
アンは、少し驚いた顔をしたが、すぐに笑顔を浮かべた。
「2年で卒業したら、またここへ戻ってくるつもりだ」
「やっと、弁護士になるのね」
「そうだな」
そう言うと、アンは積み上げられた本を開き、中を見ていた。
「お前は、どうなんだ?」
バリーは、ジョージから話は聞いたと言った。けれど、アンは何も応えなかった。
「俺が戦死したと、ジョージが言っただろ?」
アンは、バリーを見る。彼は温めたミルクを、マグカップの中に注いだ。
「俺がジョージに、そう言えと言ったんだ」
その言葉が、アンはどうしても信じられず、バリーの目を見ようとした。彼は野球帽を被っていた為、その瞳を伺うことは出来なかった。
バリーはアンにホットチョコレートを手渡す。それを見たアンは、その香りを嗅ぐと、一口だけ、口へ流した。
「おいしい・・・」
固い表情を浮かべていたアンが、柔らかな微笑を浮かべる。
「“しかめっ面も、笑顔になる”だろ?」
バリーも、笑みを浮かべた。アンは頬を、薄桃色に染めた。
「ずっと、覚えてたのね・・・」
スピラーン神父の妻、ロレーナの言葉を、バリーはずっと覚えていた。アンにソファを勧めると、自分はまとめていた荷物の上に腰掛け、被っていた野球帽を取った。
「子供は、残念だったな・・・」
バリーが視線を落とした。アンはそれに、小さく頷く。
「もう、妊娠は無理だろうって・・・」
「そうか・・・」
バリーはアンを見た。彼女は7年前と、全く変わらなかった。それどころか、その美しさが増している。
「ジョージのこと、怒っているのか?」
妊娠5ヶ月で瀕死の状態になったアンとお腹の子供を、ジョージはアンを取った。彼女は子供を助けて欲しいと懇願していたのにも関わらず、自分を取ったことに腹を立てていた。だが彼女はその気持ちを、決して表に出すことは無かった。
バリーは、そんな彼女の性格をよく知っていた。
「それに、ジョージは嘘をついていた。俺が戦死したと」
アンは、何も言わなかった。
「さっきも言ったが、俺が戦死したと、お前に言えと言ったのは、俺だ」
「嘘よ」
バリーはジョージをかばった。
「貴方が、どうしてそんな嘘をつくの?」
「嘘じゃないさ」
バリーはアンの目を見る。彼女の碧の瞳が、涙で濡れ、それは宝石のように輝いていた。
「あの時、俺たちは離れた方がいいと思ったからだ」


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