少しでもアルコールが抜けると、死んだ者たちの顔が鮮明に浮かんでくる。スヌールの町で自分が殺した農民の顔も、一人一人浮かんでは消えていった。 そして夜、ベッドの上で眠ると、遠くで鳴り響くサイレンの音、床で這い回る鼠の音さえも、微かな物音で飛び起きるようになる。 戦場で役に立っていた鋭敏な神経も、平和なアメリカでは全く役に立たなかった。 バリーはピストルを手に入れる。コルト社のM1911だった。 枕の下にいつもM1911を隠し、少しでも“安心”を得ていた。 そんな意味の無い“恐怖”から逃れる為、バリーはM1911の銃口をこめかみに当てる。 「一発で、苦しみから解放される・・・」 そう呟きながら、トリガーに指をかけた。しかし、バリーはトリガーを引くことは出来なかった。 彼は、初めて死に対する“恐怖”を感じていた。 今、自分が死んで、自分が殺した者達に、先に死んでいった者達に、顔向けできなかったからだ。 「今更どのツラ下げて、皆に会えばいいんだ」 そう思うと、バリーは自分の情けなさに涙を流した。
バリーは街を転々とした。従軍していた3年間、合衆国政府から受け取り、殆ど使わなかった給料が、底を突き始めていた。全ては酒と、女に消えて行ったのだった。 そんな中、バリーは知り合ったコールガールの家に転がり込み、彼女のヒモになった。彼は何も考えられなくなり、ただ毎日を無駄に生きていた。
ある日、バーで酒を飲んでいると、店の中にあったテレビに目を向けた。 NYでベトナム帰還兵が反戦運動の若者に混じり、デモ行進をしていたニュースだった。 その中で、見慣れた男が映っていた。両足を切り落とされたその男は、車椅子に乗って平和主義者たちとプラカードを掲げている。 第4師団LRPの上官だった、ウィリアム・ウィルキンソン大尉だった。 バリーは立ち上がり、よろめきながらバーを出た。 荷物をまとめ、すぐにNYへ向かった。なけなしの金でヒッチハイクを繰り返し、野宿をしながら3日間を費やした。 「あの時、何故俺を助けたのか」 それを訊くために、バリーはNYへ向かった。 アメリカ陸軍に問合せ、バリーはウィルキンソンの所在地を確認し、NYサウスブロンクスに来た。 ブロンクスリバー沿いの国道9号線から東へ入り、イースト・ガン・ヒル・ロードを南に入ると、ミッダーストリートに“スーザン”という看板を掲げた店があった。 扉を開けると、カウンターの向こうにいた体格の良い黒人女性が振り返る。 「いらっしゃい」 バリーはその女性を見た。 「なんだい?」 女性は怪訝な表情を浮かべる。 「大尉は・・・、ウィルキンソン大尉は、何処です?」 すぐに、その女性は笑顔を浮かべる。 「おや、ベトナム時代の兵士さんかい?」 バリーが何度も頷くと、その女性が店の奥に向かって誰かを呼んだ。すぐに、車椅子に乗った男が現れる。確かに、両足を失くしたウィルキンソン大尉だった。 「誰だ?」 ウィルキンソンが首を傾げる。無理もなかった。バリーは野球帽を深々と被り、その髪と髭は伸び放題だった。ベトナムにいたときと、全く風貌が変わっていたのだ。ウィルキンソンが気付かないのも当然のことだった。 「大尉・・・」 その声で、ウィルキンソンが気付く。 「まさか・・・タウバーか!?」
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