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作品名:サイレンス 作者:ぴきにん

第143回   143
少しでもアルコールが抜けると、死んだ者たちの顔が鮮明に浮かんでくる。スヌールの町で自分が殺した農民の顔も、一人一人浮かんでは消えていった。
そして夜、ベッドの上で眠ると、遠くで鳴り響くサイレンの音、床で這い回る鼠の音さえも、微かな物音で飛び起きるようになる。
戦場で役に立っていた鋭敏な神経も、平和なアメリカでは全く役に立たなかった。
バリーはピストルを手に入れる。コルト社のM1911だった。
枕の下にいつもM1911を隠し、少しでも“安心”を得ていた。
そんな意味の無い“恐怖”から逃れる為、バリーはM1911の銃口をこめかみに当てる。
「一発で、苦しみから解放される・・・」
そう呟きながら、トリガーに指をかけた。しかし、バリーはトリガーを引くことは出来なかった。
彼は、初めて死に対する“恐怖”を感じていた。
今、自分が死んで、自分が殺した者達に、先に死んでいった者達に、顔向けできなかったからだ。
「今更どのツラ下げて、皆に会えばいいんだ」
そう思うと、バリーは自分の情けなさに涙を流した。

バリーは街を転々とした。従軍していた3年間、合衆国政府から受け取り、殆ど使わなかった給料が、底を突き始めていた。全ては酒と、女に消えて行ったのだった。
そんな中、バリーは知り合ったコールガールの家に転がり込み、彼女のヒモになった。彼は何も考えられなくなり、ただ毎日を無駄に生きていた。

ある日、バーで酒を飲んでいると、店の中にあったテレビに目を向けた。
NYでベトナム帰還兵が反戦運動の若者に混じり、デモ行進をしていたニュースだった。
その中で、見慣れた男が映っていた。両足を切り落とされたその男は、車椅子に乗って平和主義者たちとプラカードを掲げている。
第4師団LRPの上官だった、ウィリアム・ウィルキンソン大尉だった。
バリーは立ち上がり、よろめきながらバーを出た。
荷物をまとめ、すぐにNYへ向かった。なけなしの金でヒッチハイクを繰り返し、野宿をしながら3日間を費やした。
「あの時、何故俺を助けたのか」
それを訊くために、バリーはNYへ向かった。
アメリカ陸軍に問合せ、バリーはウィルキンソンの所在地を確認し、NYサウスブロンクスに来た。
ブロンクスリバー沿いの国道9号線から東へ入り、イースト・ガン・ヒル・ロードを南に入ると、ミッダーストリートに“スーザン”という看板を掲げた店があった。
扉を開けると、カウンターの向こうにいた体格の良い黒人女性が振り返る。
「いらっしゃい」
バリーはその女性を見た。
「なんだい?」
女性は怪訝な表情を浮かべる。
「大尉は・・・、ウィルキンソン大尉は、何処です?」
すぐに、その女性は笑顔を浮かべる。
「おや、ベトナム時代の兵士さんかい?」
バリーが何度も頷くと、その女性が店の奥に向かって誰かを呼んだ。すぐに、車椅子に乗った男が現れる。確かに、両足を失くしたウィルキンソン大尉だった。
「誰だ?」
ウィルキンソンが首を傾げる。無理もなかった。バリーは野球帽を深々と被り、その髪と髭は伸び放題だった。ベトナムにいたときと、全く風貌が変わっていたのだ。ウィルキンソンが気付かないのも当然のことだった。
「大尉・・・」
その声で、ウィルキンソンが気付く。
「まさか・・・タウバーか!?」


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