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作品名:サイレンス 作者:ぴきにん

第139回   139
バリーの血圧も安定し、風景が激しく揺らめいていた眩暈も治まっていた。
あとは、アメリカ・ハワイ州オワフ島にあるトリプラー陸軍病院に移り、「ブラック・アウト」記憶傷害に対しての精密検査を受けるのみとなった。
長かった3年間の従軍期間を終え、ついに、このベトナムを離れる日が来た。
サイゴン陸軍病院を出る二日前、バリーはサラを呼び止める。
「俺との“契約”、忘れてないだろうな!」
「あら、何のことかしら?」
サラはカルテを手に、平然を装った。バリーは指に輪ゴムをかけ、サラの手にめがけ、それを飛ばす。輪ゴムは見事に彼女の手に命中する。
「痛いわね!」
サラは手にしていたカルテを落としてしまった。
「お前が、無視をするからだ」
彼女は、わざとバリーと視線を合わせようとしなかった。その姿を見たバリーは申し訳なさげに、下を向く。彼は少年のように、彼女に甘えの姿勢を見せた。それに気付いたサラは、笑みを浮かべる。
「覚えているわよ。もし良かったら、昼から非番だから、行く?」

二人は、サイゴンの街へ出た。昼食をとり、街を散策する。普段から冷静で口数の少ないバリーが、このときは高揚する気持ちを抑えきれなかった。彼はよく笑い、よく喋った。サラから、ひと時も視線を離さなかった。彼女も、バリーの気持ちに気付いていた。だが、彼女には不安ばかりが過ぎっていた。二日後には、バリーはベトナムを離れるのだ。彼の自分に対する気持ちは、そう長くは続かないだろうと考えていた。
夜になり、二人がサイゴン陸軍病院に帰る前、バリーはサラの手を握り、目を見ながら囁いた。
「アメリカに戻っても、また会えるかな?」
サラは、何も応えなかった。
「いや、また会いたい・・・」
彼女は、バリーの瞳から目をそらした。
「どうした?」
「私たち、離れ離れになるのよ。幸せになれっこないわ」
「どうして?」
バリーは目をそらしたサラの目を見た。
「どうしてって・・・離れたら、気持ちも離れるわ・・・」
その言葉に、バリーは微笑む。
「それは、お前の思い込みだ。多分、お前のような女には、二度と出会えないだろう」
サラの目に、涙が溜まり始めた。
「お前のような、スプーキー(変人)には・・・」
その言葉に、サラが思わず笑う。
「一緒にいて、楽しいし、安らぐ。こんな気持ちは、初めてなんだ」
サラは涙を流しながら、バリーの言葉に微笑んだ。
「お前と話すだけで、幸せなんだ。離れてたって、構うもんか」
「バリー・・・」
「手紙、書くよ。俺が毎日、何を感じて生きてるか、聞いて欲しい」
サラは溢れ出る涙を、手で拭い取る。
「私も、書くわ・・・。手紙・・・」


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