翌日バリーは、自らの記憶の一部が欠けていることを、サラに打ち明けた。 どこの部隊に所属していたのか、何故ここにいるのか、全く覚えていない。サラは、左肩を撃たれたときに循環性ショックを起こし、それによって脳への血流量が減ったことにより起きた「ブラック・アウト」だと応えた。 一時的な記憶喪失である。 「大丈夫。何かの拍子で戻ることがあるから、今は傷を治すことが先決よ」 とサラが言った。 だが、バリーは“成すべきことがあったはず”と、そればかりが気になっていた。 「言っておくけど、煙草は駄目よ。見つけたら、ただじゃおかないわよ!」 サラは口の悪い女だった。
来る日も来る日も、バリーは病院のベッドの上から、窓の外を眺めていた。煙草を吸えない苛立ちと、記憶が戻らないことの苛立ちが募る。 「もう、無理だ」 バリーは、また右の全身に包帯を巻いた男から煙草を分けてもらうと、ふらつきながら、病室の外にあるテラスに出る。幾分か、激しいめまいも治まってきてはいたが、まだ目の前の風景が波打っている。これも、苛立ちの原因の一つではあったが、煙草の煙を吸えば、少しは苛立ちも無くなるだろう。辺りを見回し、危険が無いことを確認すると、煙草をくわえ、火を点ける。 やはり、煙草の煙は落ち着く。だがその時、背後に殺気を感じ、振り返る。 サラが仁王立ちで、バリーを見下ろしていた。 「吸ったら、ただじゃおかないって言ったわよね!」 バリーは、その殺気には怯えていなかった。ゆっくりと立ち上がると、サラの目を見つめる。 「お前が俺とデートしてくれたら、煙草は止めてやってもいい」 「どうして、そうなるのよ!?」 バリーの言葉に、サラが怯んだ。 「どうなんだ?」 煙を吐きながら、サラの瞳を覗き込む。彼女の瞳は、茶褐色の美しい色をしていた。彼女は、バリーの視線から目をそらす。 「わかったわ・・・」 そう言うと、バリーは手で煙草の火を消し、それをサラに渡した。 「その代わり、貴方が元気になったらの話しよ」 「契約成立だな」
バリーが体調を戻すまでの間、サラと様々な話をした。 読んでいた文学の書から、好きな食べ物まで。時には消灯時間を過ぎても、外のテラスで夜を徹して話すこともあった。 彼女はスタンフォード大学のインターンで、そのままベトナムへ志願し、軍医となった。 「女の軍医とは!」 バリーが感嘆の声を上げる。 「女でも、戦場へ出られるのよ。それを、証明したかったの」
バリーは、聡明で美しい彼女に、次第に惹かれていく自分に気付いていた。
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