一瞬、サラの動きが止まった。 「何を・・・!」 ゆっくりと立ち上がり、煙草をくわえたまま、真っ赤に染まりあがったサラの顔を覗き込む。 「どうだ、俺の女にならないか?」 サラは目を見開いたまま、ぴくりとも動かなかった。 「冗談だ」 そう言うと、バリーは笑った。笑うと体中に激痛が走るものの、笑わずにいられなかった。怒りで赤く染まった彼女の表情が、面白かったのだ。 「何、笑ってるのよ!」 サラは、医師にあるまじき行為をする。バリーの頬を、思わず平手打ちした。直後に、彼女は自分の犯した行為に気付くが、バリーに異変が見られた。彼はそのまま立ちすくんでいる。 「どうしたの・・・?」 バリーは目を見開いた。誰かがこめかみを撃ちぬかれる瞬間、見慣れた男が自分にライフルの銃口を向けた瞬間が、一瞬の光と共にバリーの目に甦った。 バリーは頭を抑え、そのまま意識を失くし、床に倒れてしまった。
目を覚ますと、また同じ天井に、シーリングファン(天井扇)が回っている。左に顔を向けると右足を失くした男が眠っており、右には全身に包帯が巻かれた男が寝ていた。だが、辺りが薄暗い。あれから、時間が経っていることは間違いなかった。 ふと気配を感じ、足元を覗き込んだ。 そこには、椅子に腰掛けたまま、居眠りしている白衣の女が居る。 サラ・マクミランだった。 バリーは、また上体を無理に起こそうとする。その音で、居眠りをしていたサラが目を覚ました。 「駄目よ、寝てなきゃ」 ベッドに近寄ると、バリーを制止し、寝かせた。バリーは何時かと聞き、サラは腕時計を見せる。彼女は0時35分と告げ、バリーが倒れてから12時間以上が経ったと応えた 「全く、馬鹿な人ね。煙草を吸いたいが為に、命を賭けるなんて」 「煙草が吸えないんじゃ、死んだ方がマシだ」 バリーが応える。 つかの間の沈黙の後、押さえ切れなくなった二人から、笑い声が漏れる。一頻り笑った後、徐にサラが口を開いた。 「昼間は、ごめんなさい・・・。あんなことするつもりじゃ・・・」 「いいんだ。悪いのは、俺だ。お前が謝ることはない」 そう言うと、バリーは手を差し出した。サラは握手を求める、彼の手に応える。 「サラ・マクミランよ、ルテナン(中尉)」 「バリーでいい。よろしくな」
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