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作品名:サイレンス 作者:ぴきにん

第132回   132
第4師団LRPのHQ(本部)を出ると、サン・ベイアメリカ軍基地は、夜も更けていたのにも関わらす、騒然としていた。カンボジア侵攻から、ここは眠らない基地となっていた。昼夜を問わずヒューイが離発着し、様々な部隊が基地内を通り過ぎて行く。そんな中で、ウィルキンソンは荷物を手にし、ダナン出発の準備の為、補給部に向かおうとしていた。
様々な部隊の兵士が基地内を闊歩する中で、彼は自分の傍を通り過ぎる、ヘルメットを目深に被ったMP(憲兵)の男に気付いた。
「どこかで、会ったような・・・?」
ウィルキンソンが振り返る。MPの男は、既に消えていた。


MACVが既に撤退の意思を示し始め、エドナー・ガーツは撤退の為の作戦を練り始めた。翌年に予定されていた“ラオス侵攻作戦”だったが、MACVは既に敗北することを読んでいた。各SOG、LRPのラオス偵察任務の情報を分析した結果、ラオス解放軍や入民武装勢力の巧みな包囲網によって、アメリカ軍と南ベトナム軍は敗退するだろうと、エイブラムズ将軍は考えた。“ラオス侵攻作戦”に投入されるのは、当然のことながら海兵隊と、自らが廃棄したい部隊を行かせるつもりだった。いわゆる、“捨て駒”である。ウィルキンソンは、その“捨て駒”部隊の一人だった。
ガーツは、主力戦力の撤退準備に追われていた。デスクの上にはファイルが積み上げられる。彼は一日中、様々な書類を睨んでいた。そのせいか、ドアをノックする音が聞こえなかった。もう一度、ガーツのオフィスのドアをノックする音が聞こえた。
「何だ?」
ガーツは顔を上げないまま、応えた。
「エイブラムズ将軍からの伝令です」
ドアの向こうにいた兵士が言う。
「入れ」
ガーツは、まだ書類から目を放さなかった。ドアが開き、一人のMPが入ってきた。数冊のファイルを、手にしている。
「A・S・A・P(出来るだけ早く)で目を通せとのことであります」
そう言うと、そのMPはファイルをガーツに手渡そうとした。ガーツは「うむ」と頷き、ファイルから目を放さないまま、手を差し出す。

その瞬間、全ての世界がスローモーションに見えた。

MPは服の袖から、すばやくナイフを取り出すと、ガーツに切りかかった。


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