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作品名:サイレンス 作者:ぴきにん

第129回   129
発射角、ジョンが倒れた方向、ジョンのこめかみを突き破った銃創、それらを見れば、弾丸を撃った方角は、すぐに分かったはずだった。だが、バリーはそれさえも出来なかった。彼は冷静さを欠いた。ヘイズの名を大声で叫びながら、ただ闇雲にジャングルを駆け回る。
「殺してやる!」
バリーは息を乱した。普段は決して乱すことの無い呼吸を。カムフラージュしたヘイズは、バリーの姿を見て、愉しんだ。
「あんたの弱点は、あんたが大切に想う人間が傍にいることだ」
ヘイズはスコープを覗きながら、無様に走り回るバリーに、憫笑を浮かべる。
「そのとき、あんたの鋭敏な“勘”は、鈍るのさ」
ジョンは、バリーにとって二人目の“親友”となり得る男だった。その“大切な人間”を、目の前で殺されたのだ。普段のバリーなら、敵の“殺気”を、すぐに感じ取れるはずだった。
「あばよ、ルテナン・・・」
ヘイズはスコープを覗き込む。その照準は、バリーの頭部を捉えていた。そのとき、バリーの背後からベトナム語が響き渡る。闇雲に走るバリーに気付き、彼を追ってきた追撃隊だった。そのまま直進すると、隠れていた自分も見つかってしまう。ヘイズはメコン川に向かって走り出した。それに気付き、バリーが彼を追う。ヘイズは無線機で、爆撃を要請した。
「オメガ1からアルファ2!応答せよ!オメガ1からアルファ2!」
ヘイズはホーチ・ミン・ルートの緯度と経緯を読み上げる。爆撃機は、5分で到達すると返答した。しかし、その爆撃ポイントは、実際のホーチ・ミン・ルートからは外れていた。

バリーはメコン川へ逃げるヘイズを追う。背後からは、北ベトナム軍の追撃が迫るが、前を走るヘイズを射程距離に捉えた。
そのとき、上空から轟音が聞こえる。バリーは一瞬で、それがF-4ファントムと気付いた。瞬時に、ファントムが自分のいる地点にナパームを降下させる。バリーは走った。メコン川へ走る後方で、ナパームによる爆発が続く。爆風でバリーの身体が吹き飛ばされ、そのままメコン川に投げ出された。水中で川面に出ようとするが、撃たれた右肩の痛みと水流で、思うように泳ぐことが出来なかった。上下が分からなくなり、バリーはそのまま気を失ってしまう。

暗闇の中から、それは不気味に輝いていた。
銀色に光るナイフ。
それは人々の血を吸い、魂を持ったナイフ。
そのナイフは、ある女の胸に突き刺さる。
女は死の直前、誰かの名を口にした。
その名は、聞き覚えのある名だった。
女を助けようとしたとき、暗闇の中から手が現れる。
その手は、自分の腕を掴み、女から遠ざけた。
その手を振り払おうとするが、女は暗闇に消えてしまった。

「アンジェリア!」
バリーが叫ぶ。
ふと気付くと、彼はメコン川の川岸で倒れていた。現状を把握しようと上体を起こす。見ると、下流ではあったが、対岸まで流されていたようだった。既に陽は沈んでいる。撃たれた右肩が、急に痛み出した。
「まだ、生きているのか・・・」
そう言った後、川の中から何かを吐き出す音に気付く。川の中から、白い生き物がバリーを見つめていた。


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