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作品名:サイレンス 作者:ぴきにん

第126回   126
5ヶ月前の、カンボジア侵攻という名の大虐殺があったスヌールの町には、今は南ベトナム政府軍が駐留している。そこを通り過ぎた所に、今回の作戦で使われる、LZ(着地点)があった。バリーはヒューイの中から、スヌールの町を見下ろした。彼の中で、忌まわしい記憶が甦る。未だに、人間の焼ける臭いがしていた。
ヒューイがLZにタッチダウンすると、3人が飛び降り、林の中に身を隠した。ヒューイが去ったのを確認すると、バリーのSOGはメコン川を目指した。北西に進むうち、あれだけ生い茂っていたマングローブの木々が、枯れ始めている。その原因、一つは爆撃によるもの、もう一つはアメリカ軍による「ランチハンド作戦」によるものだった。悪名高き「エージェント・オレンジ」の散布である。
ベトコンが潜伏する森を消失させる目的で、「オレンジ剤・ホワイト剤・パープル剤・ピンク剤・グリーン剤・ブルー剤」という枯葉剤の散布を始めた。中でも、大量に散布されたのが「オレンジ剤(エージェント・オレンジ)」だった。アメリカ軍は1962年からこの作戦を続けている。バリーはこの作戦で、大量に「エージェント・オレンジ」が散布されたクラチエ州に滞在していた為に、軽度ではあったものの、枯葉剤による後遺症に悩まされるようになる。
かろうじて残っていたマングローブの木々に、身を隠しながら先に進んでいると、AK47の銃声が轟いた。3人は一斉に身を伏せる。
「ヘイズ、見えるか?」
M70ライフルでスコープを覗き込んでいたヘイズに、バリーが問いかける。
「4人いる」
「ジョン、左右から叩く!」
ジョンが頷き、二人は左右に散開した。ヘイズは4人のうちの二人を射殺する。バリーは「いい腕だ」と感心しながら、残りの一人を射殺。ジョンもそれに続いた。バリーは確認の為に倒した4人の下に近付いた。すると、そこに倒れていたのは、1人の男と、3人の少年だった。少年の1人が、息も絶え絶えに苦しんでいる。バリーは腰からピストルを出すと、少年の頭に弾丸を撃ち込み、即死させた。
後から追いついたジョンが、それを見て侮蔑の眼差しをバリーに向ける。彼は、少年が苦しむ姿を見ていなかった。
「クメール・ルージュだ。ここにもいたとはな」
彼等は、白と赤のチェック柄のストールを、首に巻いていた。バリーは、敢えて言い訳はしなかった。

メコン川に到着する頃には、既に陽が沈んでいた。ここまでの経路には、なんら補給路のようなものは存在していなかった。そこから一度北上し、3人はクラチエ州の州都であるクラチエに向かった。その途中、メコン川の岸で3艘の小船を見つける。
バリーは、メコン川の向こうの川岸を見た。そこには多いとは言えないものの、ジャングルが広がっている。ホーチ・ミン・ルートはジャングルに囲われている。新たに整備された補給路があるとすれば、川岸の向こうにある可能性が高い。
「川を渡る」
バリーが言った。


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