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作品名:サイレンス 作者:ぴきにん

第123回   123
「“敵前逃亡”で貴様のSOGは、全員射殺となってもいいのか?」
襟首を掴みあげるハルバーリンが、バリーの耳元で囁いた。
「貴様が“ベトコン”どもを、より残忍に殺せば、チームの命だけは助けてやろう」
バリーがハルバーリンを睨む。
「俺が一人で殺る。俺のチームには、手を出させないと約束しろ!」
「貴様が、命令できる立場ではない!」
掴んだ襟首を締め上げる。それでもバリーは眉一つ動かさなかった。
「俺のチームに傷を一つでも付けたら、あんたを地獄の底に、叩き落してやる!」
バリーは、その水色の瞳でハルバーリンを睨み付けた。一瞬、ハルバーリンは冷徹な瞳に恐れを抱く。
「貴様が、やつらを残忍に殺せばの話だ」

人間の焼ける臭いが漂う中、バリーは町の中心部へ足を進めていた。道路は人々の血で、赤く染まっている。死体が何十体も転がっていた。皆、兵士たちが削ぎ落としたせいで、耳や鼻が無くなっている。その光景を見ながら、バリーは「戦争を無くすには・・・」と“スカル&ボーンズ”のヘイリー・ステニスに説教をしていた自分を思い出した。
「馬鹿なクソガキだった・・・」
思わず、その言葉が口から突いて出た。たった3人の仲間を守る為の、“大量虐殺”。バリーは歩を進めながら、自分が貫いた“正義”に矛盾を感じていた。
道に転がる死体たちは、おそらく家族を守り、日々の恵みを享受しながら生きてきた、ただの農民だった。「ベトナム人を殺せ!」デボアの“第二の試練”も、バリーは「戦争を無くす為」と信じていた。しかし、その結果がこの惨状だった。
バリーは、自分の後を尾ける数人の男の存在に気付いた。おそらく、自分が町の人間を見逃すのではないかと、ハルバーリンが尾けさせた者だろう。自分が町の人間を見逃せば、尾けてきた兵士によって撃たれ、即座に死ねるだろうが、同時に仲間もハルバーリンの兵士によって殺される可能性もある。
「“フラギング”とはな」と、小さく呟いた。
“フラギング”とはベトナム戦争時に、造られたスラングである。仲間同士の殺し合いを意味していた。
大通りを突き進み、バリーは町の中心に出た。爆撃によって、建造物の殆どから、火の手が上がっている。しかし人の気配はしなかった。町は、既に死の町と化していた。引き返そうとしたとき、火の手が上がっている建物から、一人の少年が出てきた。恐らく、隠れていたが火事によって外へ出てきたのだろう。バリーは少年に銃を向ける。だが少年は泣きながら、バリーに許しを請う仕草をした。引き金に指をかけたまま、バリーはその少年を見た。
「何をしている、撃ち殺せ!」
バリーを尾けていた兵士が叫ぶ。バリーは、その引き金を引いた。頭から血を流して倒れた少年に近付き、腰からサバイバルナイフを取り出すと、少年の首を切り落とした。それを見ていた兵士も、顔をしかめる。首を掴みあげると、バリーは口元に笑みを浮かべた。
「ヘザー、君の言うとおりだよ」
それを手にしたまま、元の道を引き返した。
「この世界も、この俺も、狂ってる・・・」


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