3月にカンボジアで、アメリカの支援を受けたロン・ノルとシアヌークの従兄弟であるシリク・マタクの反乱軍によって、クーデターが成功する。臨時政府である首相の座に就いたロン・ノルは、アメリカにカンボジア“侵攻”を許可した。
バリーは何度かの窮地を潜り抜け、再度“異例”の特進を果たす。階級は中尉(給与等級O-2)となり、MACVの作戦本部でもS3(作戦将校)と同じレベルの地位を得ていた。
カンボジア“侵攻”の準備に沸き立つニャチャン(ナトラング)に、バリーのSOGを乗せたヒューイが降り立つ。メインローターの揚力によって舞い上がった砂の中に、任務を終えたバリーが地に足を着ける。この瞬間、彼はいつも自分が生きている事を実感していた。それは、生きているという“喜び”ではなかった。 死ぬつもりで来たベトナムで、既に2年が過ぎ、己は未だに死ぬことも出来ないでいる。バリーは、そんな自分を、いつまでも恥じていた。 ふと顔を上げると、MACVのテントの傍で5th SFGが教えるリーコンスクールを出た者たちが並んでいる。彼らは次期、LRP隊員になる者達だった。その中で、バリーはブッシュハットを目深に被った一人の黒人に目を向けた。 その瞬間、目の前に断片的な記憶が光と共に甦る。怒りを露にするアンジェリアの顔、着慣れないスーツに身を包んだ自分、そして、フットボールの試合を中継していたテレビの画面。カージナルズのマーク。 「あんた、ジョン・マッキンタイアだろ!」 突然、バリーが声を上げる。ブッシュハットを被った黒人の兵士が、バリーを見た。 「そうだが・・・」 そう言うと、その兵士・ジョン・マッキンタイアが被っていたブッシュハットを取った。 「やっぱりそうだ、“ブラウン・ブリット”(黒い弾丸)だ!」 声を上げるバリーの表情に、同じSOGのクルーエルが目をむいた。いつも冷静で、時折見せる冷徹な表情は、誰もが恐怖するほどだったが、あんな表情を見せるのは初めてだった。 「カージナルズのクォーターバック!俺、あんたの大ファンなんだ!」 バリーが言うと、マッキンタイアは笑みを浮かべながら、手を差し出した。 「こんな所で、俺のファンに会うとは」 二人は握手を交わす。 「何だ、あんた第4師団配属か?」 「ああ。LRPに配属になる」 「じゃ、俺と同じだな」 バリーは笑みを浮かべた。 「俺はバリー・タウバーだ」 「よろしくな」 二人は、もう一度固い握手を交わした。
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