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作品名:サイレンス 作者:ぴきにん

第116回   116
バリーの下を去るホアに、彼は何も感じなかった。
ジャケットの内ポケットからラッキーストライクを取り出すと、火を点ける。東を向くと、プノンペンの夜景が見えていた。
「カンボジアは、美しい国だ・・・」
バリーは、小さく呟いた。その声は、空港を飛び立つ旅客機のエンジン音にかき消され、モビーディックは聞き取ることができなかった。

1970年3月18日、ロン・ノルがクーデターを起こし、アメリカ軍と南ベトナム軍に
北ベトナム軍を撃破する為の攻撃を許可する。基地地域のみの米軍による空爆も、これ以降カンボジア全土に広がっていった。これによって、罪も無い農民が被害を受け、僅か1年半で200万人の国内難民を出した。
また、反ベトナムキャンペーンを掲げ、カンボジア国内のべトナム人を迫害・大虐殺を繰り返した。

バリーは倒したNVA兵士からAK47を取り上げると、銃口を自分の右肩に向け、引き金を引いた。その瞬間、全身に激痛が走る。バリーの顔が苦痛に歪んだ。自分で応急手当てを手早く済ませると、PZ(ピックアップ地点)に急ぐ。

「どういう事だ!?」
ガーツが、帰還した治療中のバリーに問い質した。
「デイル・スネップに、何があったのだ!?」
「報告した通りだ。帰還の途中でNVAの大隊にぶつかってしまい、攻撃を受けたんだ」
包帯をしたバリーの右肩から、血が滴り落ちる。衛生兵がその包帯を外し、傷口を露にさせた。
「スネップは、撃たれて死んだ。俺も、見ての通り、命からがら逃げてきたんだ」
ガーツは、そのまま押し黙ってしまった。スネップがNVAの攻撃によって死んだという事実は、どうしても信じられなかった。ガーツは、バリーの右肩の傷口を見る。
「貴様、このままで済むと思うなよ・・・」
そう言い捨てると、ガーツは医療テントを出た。その後姿を目で追いながら、バリーの体から、笑いがこみ上げてくる。怒りを露にしたガーツの姿が、どうしても可笑しかった。
「曹長・・・何が可笑しいのですか?」
傍で治療していた衛生兵が、怪訝な表情を浮かべる。
「何でもない。治療を続けてくれ」

ロン・ノルのクーデターには、不可解な点が多く、CIAが暗躍しているとも言われていたが、定かではない。ロン・ノルに接触した可能性のあるCIA局員は、1969年に行方不明となっている。

歴史とは、光に照らされた事実だけを、記録しているに過ぎない。
その影で蠢く多くの“真実”は、光を浴びることなく、歴史の闇の中に葬られていった・・・。


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