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作品名:サイレンス 作者:ぴきにん

第114回   114
ロン・ノルの執務室を轟かせるほどの声が聞こえた。ドアが開き、身形の良い男が入って来た。ロン・ノルは、彼を見て立ち上がる。
「マタク殿下!」
その男は、ノロドム・シアヌーク国王のいとこである、シリク・マタクだった。
「迷う必要はない!」
ロン・ノルはデスクをシリク・マタクに空け渡す。そこに、彼が腰掛けた。シリク・マタクの後に、スーツを着たバリーとホアが執務室に入ってきた。その姿に、スネップは目を向ける。
「彼は?」
ロン・ノルがバリーを指した。
「“デボア家”の後継者候補だそうだ」
シリク・マタクに言われ、バリーは一礼する。
「バリー・タウバーと申します。閣下・・・」
「デボア・・・フランスへ留学していたとき、その名を聞いたことがある。軍事・経済を司る、オーストリアの豪族だったな。確か、ハノーブ・トラストバンクの創始者が、ジャン・デボアと言ったはずだ」
ロン・ノルが言った。
「はい。ジャン・デボアは僕の祖父です」
そう言うと、バリーはホアから一冊のファイルを受け取り、それをロン・ノルに手渡した。
「これは・・・?」
ロン・ノルは、そのファイルの中身を見る。
「シアヌークの汚点だ!」
シリク・マタクがデスクを叩き、声を上げた。手渡されたその資料を見ていくうち、ロン・ノルの手が震え始めた。
「そのファイルは、COSVN(南ベトナム中央局)にあった物です」
バリーの言葉に、スネップが反応する。
「カンボジア国内に“ホーチ・ミン・ルート”を造る代わりに、シアヌーク王は莫大な賄賂を北ベトナム軍から受け取っていたのです」
そこには、金や銀、武器等がシアヌークの懐に入っていったことが、克明に数字となって記載されていた。しかし、その数字が半年前から急速に落ちてきていたのだ。
「シアヌーク殿下が、北ベトナムを我が国から追い出そうとしたのは、賄賂が減ったせいなのか・・・!」
ロン・ノルの声が震えだす。
「閣下、“ブリュメールの18日”です!」
バリーが声を上げた。
「“ブリュメールの”・・・」
ロン・ノルが呟く。“ブリュメールの18日”とは、混乱していた総裁政府を、ナポレオンが倒した軍事クーデターを意味していた。
「そうです。アメリカと手を組み、カンボジア国内にいるベトナム人を追い出すのです!」
バリーは拳を上げる。
「しかし・・・どうすれば良いのだ・・・?」
ロン・ノルが言った。
「アメリカに空爆させれば良いのです。座標を、ベトナム人居住区に合わせればいいだけですよ」
スネップの顔から血の気が引いていく。バリーは、カンボジア国内の基地地域だけではなく、この機に乗じてカンボジア国内の在留ベトナム人も、迫害せよと言っているのだった。
「カンボジアは今、“戦時”にあります。国内にいるベトナム人は、全て“敵”なのです!」
バリーの声に、ロン・ノルは高揚し始めた。
「そうだ・・・ベトナム人は、全て“敵”だ!」
「ベトナム人は“敵”だ!」
ロン・ノルの声に、シリク・マタクも席を立ち、声を上げた。その二人を見詰めながら、バリーの口元に不敵な笑みが浮かぶ。その異様な姿を見たスネップは、あらためてバリーに恐怖を感じていた。


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