カンボジアの首都・プノンペンまでの行程は、然したる戦闘も無かったものの、3日の時間を要した。大規模な戦闘を避けれたのも、スネップとバリーの二人だった為、小回りが利いていたからだった。 陽が沈み始めた頃、メコン川を渡り、国道1号線に出たところで、1台の黒い車が停まっていた。66年式のクライスラー・インペリアルだった。中から、黒いスーツを着たホアと、デボアのケースオフィサーが出てきた。 「さあ、これに乗りましょう」 バリーが言う。 「彼らは?」 スネップは二人を指差した。 「ウチの運転手と、僕の戦友です」 バリーはホアをスネップに紹介する。 「彼の名はホア。ヌン族の元CIDG隊員ですが、ベトナム語とクメール語、英語が堪能なので、今回は彼に手伝ってもらいます」 スネップはホアを蔑んだ目で、見下ろすように見た。 「たかだかCIDG隊員に、何が出来るんだ?」 バリーはスネップを見据えながら、ゆっくりと言った。 「彼は恐らく・・・いや、貴方より“有能”な男ですよ」 その言葉に、スネップは怒りよりも、バリーの眼に恐れを感じ始めていた。
車は1号線からプノンペン市街に入り、ラッフルズホテルに入った。フレンチ・コロニアル建築様式の装飾が施された、プノンペンで最高級ホテルである。ホテルのエントランスがある正面玄関を通り過ぎ、車は人の気配が無い裏手に停まった。車を降りると、通路までをパーテーションで囲まれている。その奥に、華美な装飾が施された狭い通路があった。 「VIP専用通路か・・・!」 スネップが声を上げた。先頭を歩くバリーは、足早に突き当たりのエレベーターへ向かった。エレベーターへ乗り込むと、ケースオフィサーが鍵を差し込み、最上階のボタンを押した。ドアが開くと、目の前に部屋に入るためのドアがあった。バリーはホアから渡された鍵を回し、部屋の中に入る。そこはプノンペンの街が一望できる、ペントハウスだった。 「ここを一週間借りました。ここから“任務”を遂行してください」 バリーが静かに言った。彼は、プノンペン米大使館には出入りしてはならないと言っているのだ。スネップはそれを理解していた。 「スーツも用意させました。それで“会見”に臨んでください」 そう言うと、バリーは部屋を出ようとする。彼を、スネップが呼び止めた。 「君は、私が誰に会うのか・・・そこまで知っているのか?」 バリーはそれに、笑みを浮かべながら応える。 「知っていますよ・・・。ロン・ノル大将でしょう?」
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