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作品名:サイレンス 作者:ぴきにん

第101回   101
ビルマからタイ、ラオスを通ってサイゴン、バンコク、ビエンチャンからアメリカに至る麻薬ルートは、全て俺の手に落ちた」
バリーが左で拳を作る。
「生アヘンは、22ポンド(10キロ)で400から600ドルでCIAが買い取ってるだろ?精製した白アヘン(ヘロイン)で2ポンド(1キロ)あたりバンコクで2000から2500ドル。ニューヨークやサンフランシスコでは、18000ドルから時には27000ドルに跳ね上がっているよな」
ガーツは驚愕していた。完璧な緘口令が敷かれていたはずにも関わらず、目の前にいるバリーの口から、詳細な価格まで出ていたのだ。
「どこで・・・その情報を?」
「情報ソースを口にするのは、この世界じゃタブーだろ?」
ガーツはバリーの背後にいる組織が何なのか、自分の思い当たる情報を整理していた。
「アメリカまでのルートは、俺に任せないか?手数料は、末端価格での売上げ10%でいい」
「お前・・・何を言っているのか、分かっているのか・・・!?」
ガーツの顔から血の気が引いていた。
「俺にとっても、あんたにとっても悪い話じゃない。10%は、妥当な相場だ」
バリーは、ずっと口元に笑みを浮かべている。
「お前の、背後にいる組織は何だ?KGBか?」
「ラングレーで、俺の過去を調べてみろよ」
全く動じないバリーに、ガーツは少しずつ冷静さを取り戻し始めた。
「お前の望みは、金か?」
「もう一つある。俺を昇進させろ」
その言葉に、ガーツは声を出して笑う。
「若いくせに、野心だけは旺盛だな」
「昇進で偉くなりたいわけじゃないさ。ただ、この戦争には儲け話があちこちに転がってる。それを利用するのには、それなりの地位が必要なのさ」
ガーツはバリーの目を見た。その言葉は、バリーの本音のようだと感じていた。
「あと、俺が死んだら、このルートは消滅する。彼らはCIAと取引しないから、覚えておいてくれ」
この若造の背後にいる組織が何なのかを調べる必要があったが、ガーツはバリーを気に入り始めていた。
「あんたに、考える時間を一日だけやる」
バリーは、ドアのノブを回す。
「いい答えを、待ってるよ」

MACVを出たバリーは、その足でウィルキンソンのオフィスに向かった。部屋に入ると、ウィルキンソンが満面の笑顔を浮かべ、両手を広げてバリーに抱きついてきた。
「よく、生きていたな!」
「よせよ大尉。人が見たら、勘違いするだろ!」
ウィルキンソンが、どうやって戻ったのかバリーに聞くと、ホアに助けてもらったと応えた。それを聞いて、更に喜ぶ。
「ところで、お前ガーツと何かあったのか?」
ウィルキンソンが言う。バリーは両手を挙げ、何もないと応えた。だがバリーとガーツの間に漂う不穏な空気を、ウィルキンソンは感じ取っていた。


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