二日後、数十機のヒューイが滞空する中で、一機のヒューイがニャチャンに降り立つ。左胸に穴の空いたファティーグを着たバリーが、ヒューイから飛び降りた。その足で、MACV本部に向かう。その途中の作戦本部の前を通ったときに、バリーはガーツの姿を見た。彼は足を止め、ガーツを見詰める。ガーツはHQ(作戦本部)のS3(作戦将校)と何かを話しているようだった。その視線に気付いたのか、ガーツがふとバリーを見る。 バリーは表情を変えず、ガーツを見ていた。ガーツはS3と別れ、バリーに近寄る。 「まさか・・・生きていたとは・・・」 ガーツは眉間にしわを寄せていた。 「こいつで、助かったよ」 バリーは穴の空いた左胸のポケットから、大きくひしゃげた鉄製のシガーケースを取り出し、ガーツに見せた。 「運の良い奴だ」 ガーツが笑う。眉一つ動かさず、バリーは冷ややかな目で、ガーツを見詰めていた。 「何の為に戻ったんだ?」 ガーツはバリーの目から真意を計ろうとしたが、冷たい目のバリーからは、何も感じられない。 「俺に、復讐する為か?」 「それを、ここで言わせる気か?」 始めて、バリーの口に笑みが浮かぶ。その顔を見たガーツは、彼を自分のオフィスに連れて行く。その姿を、ウィルキンソンが見ていた。
ガーツのオフィスに入ると、腰に着けていたピストルを抜き、振り向きざまにバリーの額に銃口を向ける。 「吐け!何が目的だ?」 バリーの瞳は、全く動じていなかった。ガーツが動揺していることが、手に取るように分かる。バリーは、それが愉しくて仕方が無かった。 「俺が生きていたのが、そんなに怖いのか?」 「何?」 死を恐れないバリーの目に、ガーツは戸惑っていた。 瞬時に、バリーはガーツの銃を奪い、それをガーツに向ける。あまりの速さに、ガーツは呆気に取られるが、すぐに脇にぶら下げてあったナイフを取る。 二人は睨み合った。そして、バリーは引き金を引く。 しかし、弾は入っていなかった。ガーツの顔に冷たい汗が流れる。バリーは銃を持っていない左手から、いつの間にか抜き取っていた弾丸を、一つ一つ落とした。あまりの早業に、ガーツはそれに気付かなかった。 「まぁ、落ち着けよ。あんたに復讐する為に、戻ったんじゃない」 バリーは笑みを浮かべる。 「俺のコントラクト・エージェントになるのか?」 ガーツも笑みを浮かべる。しかしその口元が、引きつっていた。 「あんたと、ビジネスをしたいと思ってね」 「どういう意味だ・・・?」 バリーは、腰に着けていたバックパックから、何かが入った布袋を取り出し、それをガーツに投げ渡す。中からは、数十個のロザリオが出てきた。 「これは・・・まさか・・・!?」 「CIDG計画の宣教師達、いやCIAケースオフィサーが身につけていた物だ」 ガーツはバリーの顔を見る。しかし、その顔からは真意が全く読み取れなかった。 「彼らを殺害したのは・・・まさか・・・」 「ローガン・ブラウンは、口ほどにも無かったな」 バリーの目を見たガーツの背中に、凍るようなものが走った。
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