クッキーを食べ終わると、持って来たバスケットを手に取り、獣道をさらに奥へと進み始めた。少し歩くと、後ろを歩いていたジョージが立ち止まり、バリーを呼びとめた。 「何か、聞こえるよ」 バリーも立ち止まり、耳を済ますと、甲高い少女の声が微かに聞こえた。彼はそれがすぐにアンジェリアだと分かった。 「アンだ」 振り返ると、金色の髪をなびかせながら、ぶかぶかのジーンズをはいたアンジェリアが、二人の元に走り寄って来た。彼女は息を切らせながら、冷ややかに見下ろすバリーに怒りの眼で答えた。 「ひどいわ、私も連れていって!」 「駄目だ!家に帰ってろよ!」 「どうして!?」 ぶかぶかのジーンズも、アンの顔も泥まみれになっている。マーサの花園の手入れを、手伝っていたような様相だった。 「これから秘密の"小屋"へ行くんだ。だから他の奴に知られちゃ駄目なんだ」 「知ってるわ。"プリンセス"に会いに行くんでしょう」 「どうして知ってるんだよ!?」 一週間前、バリーとジョージはミシシッピ川で傷ついた一匹のメス猫を助けていた。二人はその猫を"プリンセス"と呼び、彼らが"ハックルベリィ"を読んで造った木の上の小屋に、"プリンセス"を連れていった。バリーとジョージはこの事を二人だけの秘密にした。誰かに打ち明けることによって、"プリンセス"が再び傷付く事を恐れたのだ。 「ごめん、俺がアンに言ったんだ」 と、ジョージが上目使いでバリーに言った。
バリーは木の上の小屋にある、板を二枚貼り付けただけの小さな"テラス"で、擦り寄るプリンセスと共に、川の麓ではしゃぐアンとジョージの姿を、目で追っていた。 アンはぶかぶかのジーンズの裾を捲り上げ、ジョージと水の掛け合いをしている。とても楽しげに遊びまわるアンに、バリーは何故か孤独を感じていた。 アンジェリアは、バリーと二つ違いの妹だった。白銀に近い金色の髪に、深い碧の瞳。その瞳はまるで宝石のようだった。彼女はその姿から"天使"、アンジェリアと名付けられ、家族の愛情を一身に受けるはずだった。
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