バリーはいつも何かに怯えていた
夜、灯りを消して眠れる日など無かった
彼の手の中で、いくつもの儚い命が消えて行った
どうして泣いているの?
とても辛いんだ
どうして辛いの?
みんな、みんな死んじゃったからさ
あなたも死んじゃうの?
わからない
でも
君が連れていってくれるんだろ、みんなの所へ
バリーは、”死”の象徴である”天使”に憧れた
金色の髪を靡かせた
碧の瞳の”天使”に・・・
1985年11月24日ミシシッピー州クワンテイル
男はいつものように、使い古されたモップとバケツを手に通い慣れた教会の扉の前に立った。辺りにはまだ霧が立ち込めており、白みかけてはいたが太陽が昇るにはまだ数時間を要していた。 毎朝この教会の埃を落とすのが、信心深いこの年老いた男の二十年続いた日課だった。 いつものように扉を開け、薄暗い教会の中に入り、正面に佇む十字架に貼り付けられたキリスト像に祈りを捧げようと跪いた時、酷く床が濡れている事に気付いた。 男は濡れている床に指を当て、そっとその年老いた目で確認しようとした。液体はぬるりとして微かに鉄のような異臭を放っている。薄暗い中、ステンドグラスから入る微かな光にその手を翳した。手には黒ずんではいるが、血のようなものがべっとりと付いている。 「まさか!」 言いようのない恐怖を感じながら、男は十字架に貼り付けられているキリスト像を見上げた。男は声にならない叫び声をあげる。 そこには、あるべきはずの像は消え、変わりに本物の人間の死体が貼り付けられていた。
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