僕を睡眠から引き戻した極悪非道な人間は、同じサークルに所属する前島からの電話だった。 「ちーす。岩根。元気?最近どう?就活まだしてるの?大変だなあ?俺?俺は四菱商事に内定もらったよ。人事の人がマジ俺のこと気に入ってくれててさあ。めっちゃ飲み会に誘ってくるわけよ。もちろん囲い込みなんだろうけど、他の内定先は断れって、酒の席で説得されるわけ。てか、やっぱり商社マン酒強すぎ。冷酒を水のようにごぶごぶ飲むんだぜ。俺来年からやっていける自信ないなあ。はははー」
前島は好き勝手にしゃべったあと、飲み会に来いよと念を押した。
僕は正直行きたくなかった。サークルの同学年の連中は殆ど進路が決まっている。そんな中自分がのこのことと酒を飲みに行って果たして楽しむことができるだろうか。否。肩身の狭い思いをしなければならないだろうし、後輩からは陰で笑われるに違いない。何よりも皆の幸せそうな様子を見るのは辛すぎる。 僕は金がないのでと、今日の飲み会に行かないと言った。 「なーにいってんだ?部長のオマエが来ないとはじまらねーだろ。金は俺が建て替えといてやるからさ、じゃな」 行かないよ、言い終わる前に前島は電話を切った。僕は大きく溜息をついてベッドに倒れこんだ。その衝撃で埃が宙に舞った。布団を長いこと洗った記憶が無かった。机の上には使用済みの食器が床には服が積み重なっていた。むしゃくしゃして仕方なかった。 僕は一番上にだらしなく重なっていたリクルートスーツを鷲掴みにすると外に出ると下宿先のマンションから程ない距離にある公園に向かった。夜の公園は人っ子一人おらず、虫の音が微かに聞こえるだけである。 僕はポケットからライターを取り出すと、リクルートスーツにゆっくりと点火した。一か月分のコンビニのバイトで稼いだ4万円のスーツは嫌な臭いを吐き出しながらめらめらと燃えた。 「はははは」 なんだか笑いがこみあげてきた。自分を今まで覆っていた薄い膜が一瞬のうちに剥がれ落ちていく気がした。 その日からちょうど一週間後、僕はサークル「無部」を立ち上げる。
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