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作品名:人間 作者:くら

最終回   1
 僕は人じゃない。
 それは勿論僕が異星人だとか宇宙人だとか、異世界人だとか、超能力者だとかとは全く違う意味で、だ。
 僕は人を「完結したもの」として定義している。
 だから家の窓から見える公園で生気あふれる子供たちも人間ではない。
 そして周りの大人たちも全て。
 僕は一般的に人間と言われる種族ではあるが、思想的には人間ではない。
 精神活動の自由だからこういう考えは誰にも咎められることはなく、僕は僕らしく生きられる。
 僕は四方壁だらけの部屋に籠っている。
 空気は淀んでハウスダストが舞っているに違いない。
 洗濯物は僕の母親が僕のことを心配しながら回収していく。
 ご飯は直接取っていない。お腹が減った。でも食べれないしお腹が減っているのに体はなんともない。ただほっそりとしてきたところだ。
 僕は生ける屍だろう。
 これは人間という種族を超えている。
 外国ではグールと言うらしいが。
 生ける屍の僕は生きていて、かつ、死んでいる。
 窓から見えるあの公園に行きたい。
 走り回る子供を見ながら「生」についてへんぴな哲学を自分の中で発展させたい――あれ? なんで僕はあの窓の向こうの風景が分かるんだろう。
 僕は瞼を固く閉じていて、もう開けることは出来ないはずだ。
 考えることすらできないはずが。
 なんで僕は、生きているんだろう。
 なんで死んでいるんだろう。
 だって僕は――。
 あああああああああああああ! 見えない! 見えない! 見えない!
 目が見えない。先ほどまでちゃんと見えていた風景が見えなくなった。
 僕の風景を返して。
 僕の記憶を思考を……思考?
 いつから僕は思考できていたんだ?
 僕は、……。
 ………………………………。



「一年前の事件、大型トラックに衝突された塩原恵一君の心臓を動かしていた機械を止め、脳死と改めて判断したようです」
 テレビのアナウンサーが淡々とした口調で話し続ける。
「一年後に脳死判定というのはあまり見ませんね。特に塩原君の場合、一年前からもう考えることは出来ないと考えられていたのになぜ一年も脳死判定をしなかったんでしょうかね」
「医師によるとちゃんと考えることが出来ていたのでは、という懸念が持たれています。この特別なケースにより、今後の脳死判定が難しくなるのでは、という専門家の話もありました」



 ――僕は人間じゃない。
 僕は生ける屍。グールなんだ。
 だから僕は完結できない。
 僕はグール、生ける屍。


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