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作品名:500万とメンソールと17歳のアタシ 作者:北村 裕志

第30回   30
『風俗って仕事はもちろん立派な仕事の1つなんだけど、ほとんどが何かしらの事情を持っている。みんな、その事情も人に言えない事が多い。お金に困っていたり、家庭を支えなければならなかったり、年老いた親を養ったり…。ここにいる従業員達も生きていく為に必死で働いているのだけど、探してもらいたくない者もいる。特に身内には…。お嬢さんが、どうしてアキって人を探しているのかは分からないけれど、あまり、詮索しない方がいい事もある…。』


(詮索しない方がいいのは分かるけど、やっぱり気になるよ…。)


「ユウはまだ子供だな…。」


「…。」


「でも、私も昔はそうだった。自分の“楽しみ”だけを追い求めていただけかもしれない。今、24になって、分かった事も多いと思う。本当は、ユウに偉そうに言える立場ではないかもしれないけれど、人にはそれぞれ事情があるからな。ユウ、お前だってそうだろ?」


アキの言葉にアタシは思わず戸惑ってしまった。


(アタシが人に言えない事情…、そう、あるよ…。)


「アキが自分で思う事情って…、18の時に何かあったって事?」


「ママは何でも話すよな。」


「でも、真梨子さんはアキの事、心配していると思うよ。アキがユウと初めて出会った時みたいに、アキも真梨子さんに助けてもらったのでしょ?ユウと同じように街を彷徨っていたんでしょ?」


「缶コーヒーでも飲むか?」


アキはアタシの質問に答える代わりにベンチからおもむろに立ち上がるとそのまま歩きだし、近くの自販機から缶コーヒーを2個買って戻ってきた。


買ってきてくれた1つをアタシは受け取る。


「…ちょうど、いまから2年ほど前になる。今みたいにとても寒い時期だった。確かに私は、今のユウのように街を彷徨っていた。その時から風俗の仕事はしていたんだけどね。」


「アキは風俗嬢になって何年になるの?」


「…もう、5年くらいになるかな。」


(5年前…、今24のアキは19の時から働いていたんだ。19の時…やっぱり18の時に何かあったんだ…。だから、19から働いているのではないだろうか…。)


アタシの頭の中でさまざまな憶測が飛び交う。


アキが18の時に何があったんだろう…。


「もう5年も風俗譲として働いているのなら、お金も結構貯まっているだろうし、アキもまだ若いから好きな事がまだまだ出来るのじゃないの?」


「年下のユウに若いって言われるとは思ってなかったよ。まぁ、いろいろあってな。
ちょっと話がそれたな。
2年前に風俗嬢として働きながらも、それほど大した事をしてなかった。
何も考えず、何も思わず…。
そんな時、ママに声を掛けてもらった。
出会ったのは、偶然。街で声を掛けれられた。
はじめは正直、うぜーだけだった。
でも、何て言うか…、言葉の一つ一つが優しかった。
どんどん付き合っていくうちに温かさを感じられるようになってさ。
今まで、女1人でしかも風俗嬢ってだけで誰も相手にしてくれなかった。
けれど、ママは違っていたんだ。
そのうち、信頼できるようになって……。
なんだか、気が付けば母親代わりみたいな存在になっていた。
私には、幼い時から両親がいないから、余計にそう思ったのかもしれないな。
ユウに初めて会った時に私は強い目をしているって言ったよな。
その言葉、当時ママから私が言われた言葉なんだ。
使いまわしみたいで悪いけど、私には何だか嬉しい言葉に思えてな。
だから、ユウにも思わず言ってしまったんだ。」


アキはここまで一気に話すと、ポケットからメンソールのタバコを取り出し、また吸い始めた。


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