「アキの彼氏の家が、地元の有志でよかったですね。」
「ほんと、こんなにすぐに分かるとは思わなかったわ。家柄って凄いわね。」
静かな昼下がり、アタシと真梨子は、とある小さな駅の前に立っている。
新幹線と在来線を乗り継いでやってきた。
アキの…大切な、全ての想いが詰まった町へ…。
駅前なのに通行人は少なく、ロータリーにはタクシーが2台停まっているだけ。
バス停の時刻表を見ても、バスが来るのは1時間に1本程度。
地元の小さなスーパーマーケットが一軒あるが、あとは見渡す限りの田園風景がアタシの目の前に広がっている。
「うわぁ…、本当に田舎だ。」
アタシは思わず口に出して言ってしまった。
「フフフ、ユウちゃんは都会育ちだから、逆に新鮮なのかもね。さぁ、行きましょうか。」
真梨子は2台停まっているタクシーの1台に話しかけ、やがてアタシに向かって手招きを始めた。
どこまで続いているのだろう…、そう思わせるほど真っ直ぐに伸びる道路。
その道路の真ん中を、のんびりと走るタクシー。
行きかう車の数も少ない。
「ねぇ、アキの彼氏の家の場所って何故分かったの?」
アタシは真梨子に尋ねた。
「お嬢さんたちが向かう米倉さんと言えば、この町では誰でも知ってるよ。きっと屋敷見たらびっくりするだろうよ。」
運転手が真梨子の代わりに説明する。
「へぇー、すごいね。田舎って。」
「はっはっはっ、お嬢さんくらいなら田舎なんて興味ないだろうなぁ。」
運転手の豪快な笑い声にアタシは思わず恐縮してしまった。
「ごめんなさい、田舎なんて言っちゃって…。」
繰り返される運転手とアタシとのやり取りの様子を真梨子はただ小さく微笑みながら見つめていた。
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