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作品名:死んだらどうなるの? 作者:mikari

第35回   Part35
「黒潮に乗って人魚姫みたいに天国に上がれたらロマンチックでいいな。」
「はぁ?今、現実の夢の話をしてるんだよ?ドン引き。」軽蔑をこめたクラスメートの視線が一斉に刺さった。あたしはしまったと口をつぐんだ。誰もフォローしてくれなかったし、夢の話を続けなかった。
昔、KYの部分を強調してみんながひそひそ話していて、格好いい男子の事を話題にしてるんだろうな。KYが誰だか知りたくてうずうずした。無邪気に尋ねて知った。みんなであたしの悪口を言って盛り上がってたと。
気まずい雰囲気にいたたまれなくて俯いた。
「また自分の世界に引きこもってるよ。」歩乃(ふの)が冷やかして、「べつにいいじゃん。友達じゃないし。」いつも甘くて良い香りのする美人の咲夏(さきか)が答えた。「普通人形姫とか言わないよね。超キモイ。」意地悪なアトがあたしをばっさり切った。「っていうか、お前に聞いてないよみたいな。」羅菜葉(らなは)の追い討ちをかけた言葉に心をえぐり取られて頬が紅潮した。ひどい。みんなの視線を避けたまま口の中で呟いた。羅菜葉がいくら可愛い声だからって、なんでも言って許されるわけじゃないのに。突然みんなの笑い声がした。いつの間にか自分の思いに心を奪われていた。またみんなとの溝が深まった。悲しかった。あたしは置いてきぼりになりたくないのに、一体全体どうしていつもみんなと合わせられないのだろう?

再放送のドラマをつけてじゃがりこを食べながら、頭の中では、いつか恋愛したら、「来世も一緒になろうな。」彼氏から言われるような純愛をしたい。反面、人形姫のような一途な恋の果てに失恋して天国へ昇っていくシチュエーションにも憧れた。2つの正反対の思いの間でシーソーしていた。

あたしは、自分が参加したければ、あたしを嫌う女子のいる輪に飛び込んでいかれる特技があった。でも、人の話しを聞くよりも自分の事を聞いて欲しいタイプだから周りをうんざりさせた。心が憔悴した。あたしの話しに耳を傾けて、優しく頷いてくれるのは幽霊だけかも?でも、死ぬことは考えなかった。だって、怖い。
今日、担任に、あたしが独り言を言うからみんな引いているからもう言うなと歯に絹きせぬ言い方でアドバイスされた。独り言なんか言ってないと思うけど。だけど、自分で気づいていないだけだった。

算数の宿題を忘れていった。ついでに、家庭科の調理実習で使うキャベツと人参を持っていくのを忘れた。グループの中にベーコンを忘れた杏がいて、あたし達はスーパーマーケットに買いに行った。杏が無口で息が詰まりそうだったから、あたしは話しかけた。彼女は、あたしから顔を背けて言った。「言っちゃ悪いけど、歯を磨いてきた?」「毎日磨いてるよ。」「口臭があるから離れて歩こう。」「えっ?うん。」あたしは、杏の後ろを歩いて口に手を当てて息の匂いを確かめた。かすかに、歯磨き粉のミントの香りが残っていた。口臭は、あたしから離れるための口実とわかってがっかりした。もしも、クラスで友達を作れるとしたら穏やかな杏だけと思っていたから。
歩道を1列になって黙々と歩いた。あたしはよそ見して石ころにつまずいて、杏の背中を押してしまった。杏がつんのめりそうになった。謝ったら杏は気持ちよく許してくれた。買い物して学校に戻り、杏が買い物を教室に運んでくれるというので、下駄箱で分かれてトイレに行ってから教室に戻ったら、みんなの視線がガラスの破片みたいで痛かった。理由は、あたしが故意に杏を突き飛ばして、猛スピードの自転車に正面衝突させようとしたと言うのだ。「自転車なんかいなかったし、わざとじゃない。そんなわけない。」わたしは訴えた。だけど、あたしはブラウン管の中にいる人みたいにみんなに睨みつけられて、大きな声で独り言を言っているみたいだった。
嵐の中を突き進んでいる旅人みたいに孤独だった。屋上で風に当たって気分転換しようとしたら、担任に捕まって、午後の授業の宿題をしておきなさいと言われた。算数の宿題は忘れたけど、国語の宿題はやってきていた。宿題をやっていないと決め付けられて心が曇った。あたしは担任を突き飛ばしざま、「やってきました。」と答えて階段を2段飛ばしして上がった。風に当たってリフレッシュした。だけど、先生がうざくて思わず軽く突き飛ばしたことで、杏を突き飛ばしてないといくら担任に言っても疑われ、親にちくられた。夜に電話をかけてきたから、あたしが担任と杏を突き飛ばしたことがお父さんにもばれてしまった。おまけに、誤報をもっともらしく担任に喋られて「自分が悪いことをしたのに先生を突き飛ばすなんて。よく注意するように言われたぞ。」あたしに言い訳をさせなかった。その晩は悔しくて眠れなかった。宿題も予習だってやるもんか!
次の日は、クラス中から非難の目で見られて、苛められて地獄だった。日に日に心が腐っていった。だから、当番で早く学校へ行かなきゃいけないと朝早く家を出て自宅に放火した。両親が死んだ。あたしは少年院で死んだお母さんと話していた。頭がおかしいと思われて、精神病院に入院させられたから隙を見て屋上から飛び降りた。頭数だけそろえたお義理のお通夜みたいで、あたしの死を心から悲しむものはいなかった。
あたしの天使はあたしを置き去りにして光の渦の中へ飛んでいってしまった。あたしはひがんだ。寄ってたかって、人を馬鹿にするのもいい加減にしろ!!と叫んだ。魂の中に何かが飛び込んだ。あぁ!あたしの魂は精神が病んで、あたしと同じ世界にいる多くの低級霊を見て怯えて震え上がった。どの顔も、お母さんとお父さんに見えていた。人を殺めた事を全く悪びれなかった罪が、あたしを苦悩の世界に閉じ込めていた。あたしに、罪の意識が芽生えたら天使が迎えに来て天国に上った。

天使があたしの背中に、独特の文字で魂を清める文章を刻み込んでいった。米粒1つ分の小さい字で、一文字ごとに沸かしたてのやかんを押し付けられたように熱かった。背中に文字が残っている間はひりひりした。文字は一晩で消えた。繰り返し背中に文字を刻まれて、心のバイオリズムが整ってきた。修行を積む準備が整ったサインだった。
1層にいる人たちの仲間に加わって、地上にいた日々を消していく浄化の修行と山登りをした。

あたしの魂は長い間下の層に留まった。あたしが下の層に居たかったからではなく運命だった。浄化に時間がかかり、カタツムリの歩みのようにノロノロ上層して魂はすがすがしい気持ちになっていた。すると、魂が徐々に小さくなって、硬い石の粒みたいになって、知らない誰かの石の粒と一体化した。ビー玉1個分の大きさの中に、あたしを入れて合計6人分の石の粒が出来た。そして、まるっきり動かなくなった。動かないのは6人の魂が自己主張出来ないようにする為だった。木の中に閉じ込められたみたいでちょっと窮屈だったけど、我慢できる忍耐力を修行で身につけることが出来ていた。暫くしたら、あたし達はばらばらになって、あたしはちょっと磨り減って、違う石の粒と一緒になった。またばらばらにされて、あたしはもっと磨り減った。あたしの知性と感情が普通の魂よりも劣っていたから、補うためにいろいろな魂とくっついたり離れたりして、劣った部分を消していた。あたしの魂はリサイクルしない魂だったから自己を完全に消し去った。混じりけのない石の粒がいくつも合わさって、前世を持たない新しい命が地上にデビューした。

掃除の時間にローラーシューズで遊んで、女子とぶつかって先生に叱られてけろりとしている少年がいた。真新しいあたしの姿だった。


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