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作品名:死んだらどうなるの? 作者:mikari

第34回   Part34
昨日の昼間、自分にはもう可能性は残されていないと絶望して、ガスをひねってバスタブにはったぬるま湯に、面倒だから洋服を着たまま浸かってリストカットした。傷口がジンジンしびれて痛かった。血管が切れるとこんなに痛いんだ。でも、死にたかったからほっとしていだ。あたしの部屋の前を通った人が「ガス臭い匂いがしている」と管理人に通報した。リストカットで死ねなかった時の為にガスをひねっておいたのに、確実に自殺するつもりが病院に運ばれて手首の傷口の手当てをしてもらって命拾いした。

左右隣の人とマンションの管理人だけじゃなくて、マンションの住人全員から白い目で見られて「迷惑なのよね、あなたみたいな人がいると。」ちくりと言われた。目深に帽子を被って何もなかった顔で、コンビニに行くんじゃなかった。噂の速さと怖さに怖気づいて外に行くのが怖くてたまらなくなってしまった。コンビニに行く余裕があって死にたいって変だと思うかもだけど、お母さんから電話が何度もかかってきていて無視していたから、絶対に訪ねてくるとわかっていて家にいられなかった。きっと、管理人が母に電話をかけて、あたしの様子がおかしいから見張っていた方がいいとか何とか言ったんだろう。
あたしは現状維持キープで、人の性格だけを変えたくて、でもそんなことは無理だってことも百も承知で、この世に不満を募らせて絶望ばかりしていたんだ。
マンションの屋上から飛び降りたとき、胸がすっとして超高速スピードで落下している途中で気絶した。ドサッと物凄い音とともに自殺完了。

ここはどこだろう?
砂漠でも無人島でもなく、緑も海も川も湖も何もない場所に着いた。自分が東西南北どちらを向いているかもわからなかった。温度が低くて薄暗くて不気味な雰囲気をかもし出していたから、あたしはびくびくしていた。
自分では気づいていなかったけれど、幸せになってはいけないと心のそこで思い込んでいて、遠くで呼びかける守護天使の光に包まれた清らかで高貴な姿を
冷めた目で見つめていたら消えた。あたしは天国行きのパスポートを逃したのだ。
生前、人生の波が高くうねる度にしんどさに負けてショッピング。小さなストレスでもショッピング。ムカつくことがあればショッピング。イラッとしたらショッピング。退屈したらショッピング・・ショッピング中毒がエスカレートして自己破産した。あたしの人生が薔薇色だったらこんな羽目に陥らなかったのに!どうしてお金はお金持ちのところに集まって、貧乏人のところにこないわけ?
その時、あたしの目に見えない誰かが、原始的な低音であたしの耳元で囁いた。
「恨め。恨め。恨んで心を腐らせちまえ。人間の腐った心ほど旨いものはないぞ。」あまりの恐怖にひっと短い悲鳴を上げて飛び上がった。霊魂が震えて目を凝らして、辺りを見回した。誰もいない。風ひとつない。辺りは薄暗いまま。人間の腐った心を食べる?クレイジーだ。怖くて、目をぎゅっと瞑った。目の中で、台風のように黒い渦が広がって迫ってきた。飲み込まれて飛ばされる恐怖に怯えて急いで目を開けた。今までいなかったのに、あたしにおいでと集団で手招きしている。全員同じ顔をして、薄い唇は血が滴りそうに赤くて、眉毛のように細い眼は白目の部分まで黒くて、白い着物を着た色素の抜けたスキンヘッド達だった。あたしは気持ちが悪くて目を背けた。「お前も自殺したんだろう。早くここにおいで。あたしたちの仲間になって人間に悪さしよう。」彼らの耳障りな独特な声が追いかけてきた。生前、努力と無縁の生活を送り、堕落したまま自殺した霊魂だったから動くのが嫌いなのだ。
はっ?自殺すると何がいけないの?自分の人生を終わらせるのが自分であることのどこが悪いのよ?あたしは思った。

生前、どうして、こうも人は誰かをこういうイメージとか決め付けて、自分とは違う人種のように区別したがるの?って思った。あたしのイメージが、おとなしそう。考えてることがまだ子供って感じ。運動神経ありそう。ってクラブで出会った男に言われた。お返しに言った。あんたは、ダサい。煙草臭い。ブサイク。男は完全に引いて立ち去った。何もかも不満だった。だから、死んだのにどうしてあたしは救われないの?やばい霊が見えたり、さっきのおっそろしい声だって幻聴でしょ?どうにかしてよ!あたしは誰にともなくわめいて不満をぶちまけて楽になりたいと主張した。あたしの前に、とげとげの棍棒を持った赤鬼が現れた。あたしは腰を抜かしそうになった。何で脅かすのよ?感じ悪いわね。心の中で毒づいたつもりが声になっていた。赤鬼に睨まれて、あたしは震え上がった。赤鬼のとがった牙と棍棒を見て、あたしはちびりそうになった。死んでいるのに、肉体が捉える感覚が生々しくあった。
赤鬼は、ごつい表情で、「お前は、神様から与えられた命を投げうって、命を弄んだ罪を償うためにここへ来た。」とあたしの罪状を述べた。重々しく言われたのにピンとこなかった。でも、さっきの疑問が解けた。お母さんに命を与えられて、あたしの命だと思い込んでいた命が、実は神様から預かったものなんだって。赤鬼はお説教を始めた。「生前、お前は精神の器を広げる努力をしなかった。辛い時を乗り越えようとしないで、心が折れてばかりいて、悪いことは全て人のせいにしていた。自分がまいた種を刈り取る気もあれではおきまい。」赤鬼は出てきたときのように突然消えた。お説教は大嫌い。罪深い女だって事くらい自覚してるっちゅーの。
人に陰口をたたかれてそれが耳に入ると心が狼狽した。だけど、あたしは人の悪口を平気で言った。誰かにちょっとした雑事を頼まれると嫌でたまらなくて、唇を尖らして心の中で毒づいた。だけど、あたしは平気で人を頼った。「あははは。」あたしは突然笑い出した。気がふれたみたいに。ようやく、飲み込めたんだ。陽のあたらない絶望の世界にいるんだって。あたしは死んでも救われない。また不満が噴出して失恋の傷がうずいた。

低級霊はつるんだ。絶対に反省をしなかった。どこにいても、どんな結果になっても不満が一杯で生きている体が欲しくなってくるのだった。守護霊のガードの甘くなった自殺願望のある肉体を奪い合った。憎しみが生まれて、誰も信じられなくて孤独になって、集団はばらついた。でも、寂しくなってまたつるんだ。再び、遠くであたしに呼びかける守護天使の光に包まれた体が現れた。あたしは、守護天使を見ただけで、一目散に背中を向け天国に行くことを拒んで意固地になった。もうあたしを放っておいて。絶望の世界に慣れてしまったから。あたしは、集団でいて不満が募ったから集団を脱けだして、精神年齢も不満も変わらず、成長しない霊魂のまま絶望の世界をイライラしながらうろついた。
同じことを何度も繰り返して、やっと気づいたんだ。守護天使の光に背を向けずに素直に耳を傾けるのがいいって。あたしにとって、一番難しいことだったんだ。素直になることって。


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