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作品名:死んだらどうなるの? 作者:mikari

第28回   Part28
高い空でカモメが飛んでいた。海がキラキラ光って、地平線のあたりでお船が小さく見えていた。波打ち際で、僕はママとお城を作っていた。パパとお姉ちゃんのレラは海に入っていた。僕は、お城作りに飽きて波打ち際を走り回っていた。大きなアナウンスが流れて、僕はびっくりしてママに飛びついた。ママの顔から楽しさが消えていた。怖いほど真剣な顔で、僕にも伝染した。何がなんだかわからなくて僕の胸はドキドキした。僕とレラはパパに抱っこされて、パパの横にママがピッタリくっついて、海と反対方向に駆けていた。砂浜が揺れているのがパパから伝わってきて、怖いよ、怖いよ、体を硬くして僕は言った。揺れが止まって僕はほっとした。でも、その次に起きたことでみんなの声が聞こえなくなった。世界にはゴオッーって音しかないみたいだった。耳が破けそうだった。走っていたパパが倒れて、僕は頭から海水に浸かった。僕の口や耳や鼻からしょっぱい海水がドバドバ入り込んだ。僕もレラもパパもママも死んだ。津波が命を盗んだんだ。僕は3歳でオムツが取れていなかった。僕は体から抜け出して自由になってパパとママを見つけて走って行った。レラがいなかった。レラは何処?僕はキョロキョロしていたから、知らない人たちがおんなじ方向を向いておろおろした顔で一塊になっているのが眼に入った。なんだかエレベーターに乗って見えないドアに向かって立っているみたいだった。僕の本能がみんなの仲間に入れと教えていた。僕はパパとママとそちらに歩いて行き一番前の列に並んで、みんなに背中を向けて立った。青白い光が下から上がってきて頭のてっ辺までいってキラリ光った。僕の心がほんの少し落ち着いた。僕達は、スカイツリーより高い処にいて、溺れ死んだ人たちがつぎつぎにやってくるのに驚いて目を見張ってみていた。レラが大人の足の間を縫って出てきた。僕は目ざとく見つけて、レラ!と叫んだ。気がついたレラが真剣な顔で走ってきた。僕達は大人数で電車に乗って天国に上がった。僕はママに、怖かったね。苦しかったね。と何度も言った。僕の心は傷ついていた。天国に着いたら僕の小さな体は元通りあった。心だけが元に戻っていなかったんだ。1層まで僕はママとパパと一緒だった。心の傷がちょっぴり治ってきてママとパパから離れたところでも遊べるようになってきたら2層に上がった。2層に上がる時、ママとパパから無理矢理引き離されて、天使達に羽交い絞めにされた僕は、「大嫌い」泣きじゃくりながら何度も言った。レラも僕の横で同じように天使に羽交い絞めにされて「やだ」泣きわめいていた。レラは6歳だった。2層は、森と冬の空にお水で薄く伸ばした灰色の何にもないぼんやりしたところと合体していて、大人は天使だけだった。天使のパワーに僕とレラの折れてしまった心が向日葵みたいに上を向いた。心と体の健康を取り戻すトレーニングが始まった。天国に行く前に、青白い光に包まれたのは、みんなの守護天使達が僕達の頭の上で輪になってヒーリングパワーを出してくれていたからなんだ。その事がトレーニングで分かった。
僕はもうほとんど玩具で遊ばなくなっていた。天国には、何でも玩具があるんだよ。だけど、同い年や年の近い子供とフワフワ飛び回ったり追いかけっこして遊んだ。レラが女の子と話しているのが眼に入って安心した。僕は夢中で遊んでいても、レラが何処にいるか気になった。寝る時はレラがいつも隣にいた。ママとパパに会いたいな、寂しくなったらカブトムシのお相撲を思い出しながら、僕は横綱で誰より強くて格好良いイメージに浸った。泣いたり、笑ったり、取っ組み合いの喧嘩をして僕はワンパクな男の子の霊魂に成長した。もう小学生だった。可愛い女の子を追いかけてスカートめくりの悪戯をした。2人の女の子の霊魂が続けてきゃぁきゃぁ声をあげた。僕が連続してスカートをめくったから。でも、一人は、ブルマを履いてたからハズレ。もう一人の子は可愛いフリルのパンツで当たり。トレーニングには真面目に取り組んだ。それで、僕とレラがママとパパから引き離されたのには理由があったことを知った。動物に生まれ変わる運命の子供だったからだ。ちなみに、子供がみんな動物とか虫になるわけじゃない。後、子供は、植物に生まれ変らないんだ。
僕は、ママにもパパにも会えないでいた。僕のパパは、熊さんみたいに大きいんだ。パパに肩車されたら、僕の身長じゃ見えなかった世界が隅から隅まで見下ろせた。僕は、大人になったらパパみたいに大きくなれるんだよ。でも、レラは女の子だからあんまり大きくなれないんだ。僕は、パパみたいになる事が夢なんだ。お嫁さんには、前はママって決めてたんだけど、今は募集中。レラは、超がつく可愛い女の子になったよ。生前、僕がママを取っちゃってたからママの気を引くためにわざと使っていた悪い言葉を言わなくなった。たまに、僕をバカって言うけど、優しいお姉ちゃんに変身したのは本当だよ。レラは僕の自慢のお姉ちゃんだ。
僕とレラの距離が出てきた。僕は、森で星空を眺めて地面にごろんと横になって一人で眠った。レラを見かけても、僕達は笑顔をかわしておしまいだった。
3層に上がった。天使の顔ぶれが変わっていた。僕は、子供と大人の中間の扱われ方だった。天使達は見て見ぬ振りをしているようで僕の事を注意深く見守っていたのは2層と同じだった。トレーニングの成果で決まるのが、僕の外側から見える年齢だ。僕は3歳で死んだけど、その後の人生を天国で続けられる事が出来た!嬉しくて、僕は夢中で書物を読みふけった。歴史とSFが好きで、時々ミステリーも読み、小説の中の女の子に恋をした。映画も沢山観た。スポーツして、女の子とデートして、飛行機に乗って旅行に行った。天国の精神世界は、無害な事であればイマジネーションを働かせれば大抵叶った。3歳までしか生きられなかったのに、経験していない事が本や映画の知識だけで分かるの?って不思議に思うよね。知恵のトレーニングをするとわかるようになるんだよ。僕には、天国で過ごせる時間が限られている自覚があった。4層に上がって新しいトレーニングを始めた。年齢をいじれるようになって20歳から玉手箱を開けた浦島太郎みたいに一瞬でお爺ちゃんになれた。
次の層では、体と分れて魂だけになった。層が上がる事に魂が小さくなって、心は成人していった。やがて、魂は水に溶けて核だけになった。砂1粒分の大きさの核になって動物の命の中に前世の魂として入れてもらってフクロウに生まれ変わったんだ。
僕の話しは、これでおしまい。


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