オレンジ色の魂が、誰にともなく告白していた。修行の合間で、わたしは漂いながら話しに耳を傾けた。
「空に伸びた真っ白な飛行機雲を見つめて座っていたら、草むらからバッタが現れて飛んでった。 帰ったら、お母さんが電話で話していた。従妹の四都香(しとか)ちゃんの名前が数回会話の中に出てきてて、親戚関係は間違いない。あたしのことも、こんな風に噂してるの?自分が噂されるのは気分がいいことじゃない、チラって思ったけど、お母さんの口に戸は建てられないから諦めた。 電話を切ったお母さんは、あたしに話しかけてきた。要約すると、四都香ちゃんは、最近、家にいる時間がグンと減って、荷物を纏めて出て行ったら、3.4日は家に戻らない。でも、男の家に泊まるから帰らないからって連絡は必ずある。ギュウギュウに縛り付けて家出されても困るから、四都香ちゃんのママは見て見ぬ振りしてるんだって。「相手は、彼氏じゃないって言うのよ。家だったら彼氏の家だって駄目だって言うけど。何処の誰かわからない男の子の家に泊まらせてるなんて危ないわねぇ。」「うん。」あたしは短く答えた。この話しはこれでおしまいだった。あたしには注意する必要ないもんね。超がつく方向音痴だし、行動力ないし。 だけど、お風呂に入っている間、あたしは4年会っていない四都香ちゃんのイメージを生々しく思い浮かべていた。きっと、ハイヒールと黒いワンピースと長い綺麗なハニーピンク色の髪をナンパ道具に使って、渋谷か新宿にモデルみたいなすらりとした足を立ちポーズで決めて、イケメンからイケメンへ渡り歩く漂流中の四都香ちゃんの姿を。ちなみに、あたしと四都香ちゃんは同い年。四都香ちゃんは容姿端麗な子で、化粧したら大人っぽくて目立つのも、男が声をかけたがるのも無理はない。 そうそう、この日、言われてむちゃむちゃ腹立った事があったんだった。 仲良しの夢由(むゆ)に、書き終えたばかりのストーリーの話しをした後、夢由がトイレに行っている間に、「妄想もあそこまで加速すると怖い。」とか「頭おかしい。」、何かっていうと、あたしをダシに退屈を紛らわしている後ろにいた2人組みが聞こえよがしに言ってきた。睨みつけたけど、あたしの顔を見てなくて効果なし。夢由が戻ってきたから、売られた喧嘩に夢由を巻き込みたくなくて保留。だから、学校から直帰して机にかじりついて、妄想と創作の違いを考えた。結論は、無意識に心の編集をしようとあれこれイメージを膨らませてしまうのが妄想。一方、想像力を働かせてイメージを膨らませてストーリーを展開していくのが創作。あたしのはれっきとした創作ですよーだ。 あたしは、友達が一人いればそれで充分だった。夢由は、信頼のおける友達だった。あたしはインフルエンザで3日続けて休んだ。ライバルが現れていた。夢由は、あたしとライバルの間で困った顔をしつつ笑っていた。穏やかで春の日差しみたいな女の子なんだ。仲良しを奪われかけて頭にきたあたしは、「あたしが、夢由と先に友達になったんだよ。」って興奮して言った。すると、「何それ、馬鹿みたい。」ライバルは目を丸くした。今時、真顔でそんなことを言う学生がいるんだ?って顔。「あんたとは話せない話しをしてたんだけど。」ライバルが落ち着いて答えた。あたしと話せない話し?今度はあたしがビックリして、夢由を見た。すると、「いい迷惑でも、夢由子(むゆこ)は人がよくて言いにくかったんだよねー。」「今までずっと牛に懐かれて可哀想。」例の2人組が助っ人に加わった。夢由は俯いて黙っていた。頭に血が上っていきり立っているあたしを交わすのがみんなうまくてどうしていいかわからなくなって、あたしは学校を飛び出した。背中に、「アイツ、反省するといいねー。」「ほんと。でも、幼稚だからうちらの言った言葉が通じてないんじゃない?」って声が刺さった。 あたしには、夢があった。小説家になる夢。だから、友達を失くしても、低レベルのいじめがあっても、学校を休まなかった。真面目に勉強して、大学を卒業して、OLしながら物語を書いていつか小説家としてデビューする。あたしの道は決まっていたから。でも、現実は、2人一組で体操を行う体育の授業では組む相手がいなくて先生とばかり組まされて凹んだ。穏やかな波で進んでいた人生の船が、いきなりアクシデントの渦に巻き込まれて一回転してコントロールを失い転覆したみたいな何ともいえない気持ちを味わって打ちのめされた。インフルエンザにかかったのを境に、あたしに降り注いでいた太陽に蓋をされたみたいだった。新天地を求めて、屋上の手すりを乗り越えた。死ぬ気はなかった。ただ、思い切ったことをしてみたくなっただけ。夕焼けに染まった空を見つめ、自分にエールを送ってエンジンをかけたら、希望が待っている手すりのこちら側に戻っていって生きようと思っていた。突風が吹いて、体が浮いて6階から真っ逆さまに落ちてしまった。地面と額がぶつかって頭の中にあった大事なものが流れ出て、命バイバイ。死んで分かった事がある。本当は、あの時、死にたかったんだって。でも、今は生前がちょっぴり恋しいな。もう2度と、あたしの姿じゃ地上に降り立つ事が出来ないのが悔しいな。」
人は誰でも強さと弱さを両方持っていて、バランスが良ければ世の中を上手に波に乗って進めるけれど、アクシデントに見舞われた時、繊細すぎると転覆して人の3倍は大変な思いをしちゃうんだよね。それでも、やっぱり自分に負けたら一巻の終わりだと思う。地上に沢山いる自殺志願者達に彼女の無念を教えたいってわたしは思った。人間関係に新展開を求めることを好む人と好まない人がいて、自分の気持ちにこだわりすぎて、友達以外の仲間を受け入れられず結局孤立してしまう。自分の為にやわらかい心になって、色んな種類の人を通して人間関係のバランスをゲットしてね!と強く願い、そして祈り始めた。
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