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作品名:死んだらどうなるの? 作者:mikari

第16回   Part16
春夏秋冬は目で楽しめても、温度は一定していて肌に心地よかった。

山登りの修行を終えて休憩していたわたしは、胸につけた膝を抱えて前まわりしたり宙返りしたり、無重力の状態で軽い運動をして過ごしていた。3層に来たばかりの頃ダークグレーに見えていた景色が、浄化が進んで霞がとれてはっきり見えるようになっていた。枝にはカラフルな実がたわわについて、繁った葉は鮮やかな緑色。色とりどりの花たちは瑞々しく咲きほこり、小川は清らかにサラサラ流れ、湖面は鏡のように煌き、ダイアモンドダストのように空気がキラキラ輝いていた。空には雲がゆったり浮かび、聖なる山は凛とそびえていた。わたしは空中で胡座をかいて、のんびりした気分で、自然を眺めてくつろいでいた。誰かがラブソングを透き通るような甘い高音で歌っていた。
浄化の進んだ魂たちはめいめい休憩を楽しんでいた。どの顔もリラックスして満ち足りてほのぼのしている。こう書くと学校みたいだけれど、修行の進み方はそれぞれだから、わたしが休憩している間も一心不乱に修行する魂たちは大勢いた。聖なる山はいつも大勢の魂が登ったり降りたりしていた。

真っ赤な肌で、体中スイカの種がくっついているような東洋系の男性が3層に到着した。彼は、スイカではなく人間である。
「生前は、大酒豪でお酒を飲んでも顔色に出なかったし、日焼けしても黒くならないタイプだったんだよ。それが今じゃこのザマさ。醜いだろう。」天使に話していた。穏やかな声で聞き取りやすくてわたしは聞いてしまった。「俺には学がなかった。結婚が早くて、色々な職業を転々として始めたのがタクシーの運転手だった。生まれたばかりの我鬼がいて、喉から手が出るほど金が欲しかった。ある晩やばそうな雰囲気の男をタクシーに乗せた。その男は、闇組織じゃ顔の知られた男で、そいつの口車に乗って、俺は男の足となって働き始めた。闇で働く連中から俺は顔を知られるようになって、仲間が増え、仕事を紹介してもらえることもあっていい給料を貰って生活は潤った。麻薬取引、盗聴、おれおれ詐欺、ネット詐欺、迷惑メール、ハッカー等あらゆる犯罪に手を染めていった。犯罪すれすれとうそぶいたが、犯罪者を自覚していて、犯罪を隠すための裏工作もした。警察官が仲間にいるのは心強かったね。俺のいる組織はすでにでかくなっていたから、ネット社会になると犯罪はエスカレートする一方だった。出会い系に集まる奴らをカモにした。俺の送るメールにのぼせ上がって会いたがる♀や♂に会いに行くのは、事情の分かっていないぱしりを代役にたてた。なかなか会いたいと言わないカモには、ほとんど脅すようなメールで出てこさせて、仲間が経営している居酒屋を借り切ってカモの顔を仲間に覚えてもらった。シャメを撮るのも忘れなかった。カモは利用されて犯罪者達が寄生虫のように群がっている事に気付かないでいいように金をむしり取られていた。・・ネットに○○診断ってあるんだけどさ、あれで個人情報も容易く集められた。・・まともにタクシー運転手をやってりゃ良かったんだが、それじゃギリギリ食っていかれても家族サービスは出来なかった。ある意味、仕方なかったんだよ。4人の我鬼の顔が見れたのも金があったおかげだもんな。そりゃ、捕まるかもしれない恐怖心は胸の内側に始終あったさ、それでも金になるならと喜んでやってたんだから悪だったよなぁ。結局、あれが俺の行き方だったんだよな。・・なぁ、あんたら天使達はどうしていつもそんな渋い顔で俺を見るんだい?」3層に彼の目が慣れるまで天使は側についていた。天使は彼に取り合わなかった。天使が去った後も、彼は一人で話し続けた。「でもさぁ、この俺が、酒も煙草もばくちも女遊びもしたくなくなってきてるのが嬉しいなんて気でもふれたんじゃないかと思ったけど、浄化が進んで全うな人間に近づいてきているって意味なんだよな。・・だけど、しょっちゅう顔に激痛が走って痛いのなんのって。これには閉口だね。その上、肌の色が真っ赤で体中黒い鼻くそだらけで、こびりついていて取れないんだ。湖で自分の顔を見てなんじゃこりゃと目を疑ったよ。」彼は、種の数だけ犯罪を犯して、罪の重さが赤い顔となって表れているのだった。顔に激痛が走るのは、面の皮を剥がされていく時の痛みだった。そして、喋る事で気を紛らわしていた。と言うのも、笑顔を浮かべている魂や、微笑みを浮かべている天使の顔が渋い顔や、怒った顔に見えているからだった。醜い姿になった人は、心が濁っているから人の5倍修行をやらなければ浄化出来ない。そして、お盆や命日にも天使の許可なく地上に降りていかれなかった。

いつしかわたしは、ほとんど眠らなくなっていた。心の目が開いてきていたから。そして、心の目が開いてきていた事で、太陽がいつも真上にあるのだった。景色がキラキラ輝いて見えて、休憩中は、まばゆい光を感じて体はリラックスしていた。少しずつ、わたしの魂は生まれ変わる準備を始めていた。


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