昨夜は、妙に頭が冴えて眠れなくて、3年間書き続けた日記を1ページも飛ばさずに読み返した。笑ったり泣いたり忘れていた出来事を思い出して懐かしさが込み上げた。平凡だけど、乙な人生だなって思った。人との出会いが減ったのが印象的だった。AM3時に寝て、1時間ですっきり目が覚めたから、読みかけの小説を読み終えた。洗濯機を回して部屋を片付けた。野菜を洗ってサラダと苺ジャムのトーストとインスタントコーヒーでゆっくり朝食を取った。出かける時間がきて靴をはいていたら、胸騒ぎがした。家を出た数歩で、前方からジグザグ運転の車が走ってきて、わたしは車と塀に挟まれた。内臓破裂だった。★ 魂が抜かれた空っぽの自分の肉体を茫然と上から見たら、ペチャンコのぐちゃぐちゃで最悪だった。うげっ。あんなもの見ちゃったら立ち直れそうにない。打ちのめされてふらふら宙をさ迷っていたら、天国行きの列車に乗りそびれた。こんな宙ぶらりんの何にもない所でこれからどうしたらいいの?やるせない気持ちでいたから全然前を見ていなくて、誰かと激しくぶつかってわたしはコロコロ転がった。そのまんま浮き上がる気力もなく呆けていた。と言っても、スカイツリーより高い所でだけど。どれだけポーッとしていただろう。目の前に痩せた魂がいて、闇色のオーラを放っていた事に気付いた。なんだかヤバそうな魂だなと直感した。痩せた魂はわたしとのコミュニケーションを拒否したから、わたしは2度と話しかけなかった。「誰かいませんか?」わたしは念じた。「いますよ。」はきはきした声が返ってきた。純白色の翼を持った春の太陽みたいなオーラの天使だった。天使は初めにわたしに尋ねた。「なぜ列車に乗らなかったのですか?」「自分の死んだ姿を見ていたらあまりにも悲惨で茫然としていて乗りそびれてしまったんです。」わたしは生天使を見たのは初めてで かしこまって答えた。天使は頷いて、痩せた魂にも質問した。「なぜ自ら命を断ったのですか?」「生きる事に疲れたから。」痩せた魂はタメ語で答えた。声が揺れていた。天使はわたしにだけガイドブックをくれた。痩せた方の魂には、「こちらにいらっしゃい。」と言って手招きして、わたしに聞こえないところまで行って何か教えていた。ガイドブックを読んで、地上で輝けなかった人は魂になると話す事が出来ないとわかった。話したければ、気まぐれな妖精か、魂の子守り係の天使に魔法をかけて貰うしか方法はない。シカトされたと思って怒った自分の思い込みが恥ずかしかった。天使がいなくなってから、「御免なさい。」わたしは念じた。ぎこちなく体を前後に揺らして痩せた魂は許してくれた。わたし達は、友達にならなかった。次の日、わたしは天国行きの列車に乗って地上と空の間の何もない場所を去ったから。別れる時、魂を左右に揺らしてさよならしたら、痩せた魂は見えなくなるまで左右に揺れていた。ひとりぼっちで取り残されて寂しいだろうな。と可哀想になったけど、自殺した魂は、守護天使が一緒でなければ天国に行かれなかったので仕方なかった。わたしは天国の響きにときめいた。サマーバケーションが始まる時以上の興奮だった。星間トンネルを抜けても列車はまだ上に登っていき、天国に着いたのは何日も経ってからだった。わたしは、簡単な手続きの後、天国の住人に登録され立派な銀色の門をくぐった。わたしには生前の体が戻っていた。と言うのも、天国の中でも一番下の層で、地上とそっくりな所にいたから。ガイドブックを読んで、体が戻ってきた理由を理解していた。戻ってきた体は永遠じゃなくて、わたしがいる層でだけ必要で、地上での垢を落としていくためにもう一度与えられたのだった。そうして、天国で何百年かかって修行して、わたしの魂は豆粒代になって、ミクロの粒子になって、新しい命の中に入れてもらって再び地上に降りる事になる。お腹が空いたからビルの繁華街で食事して、屋上で、雲間から地上を見たら豆粒にしか見えなかった。さぁ、友達作りに町に繰り出そう。わたしの天国での生活は、本格的にスタートを切った。
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