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作品名:『伝説の剣』Dragon Sword Saga 外伝 作者:かがみ透

第9回   第三章『伝説の剣 T 』 〜 バスターブレード3 〜
 数日後、レオンは家の外で薪を割っていた。
 本日の食事当番は、ケインの方であった。
(ふ〜ん、いい匂いじゃないか。あいつ、最近料理上手くなってきたな)
 近頃、レオンはケインの夕飯が楽しみになってきていた。
 斧を振り上げ、薪を割るが、薪は、最後まで割れず、斧も途中までしか斬り込まれていない。
 微妙に手元が狂ったのか? 彼は自分の右手を眺めながら、指を動かす。
 少し、痺(しび)れているような気がする。
(最近、ごくたまにだが、右手が痺れることがあるような……)
「レオン、晩飯出来たぞ! 」
 窓からケインが顔を覗かせた。
 レオンは、痺れを振り落とすように手を振りながら、家の戸口に向かう。
「なかなか美味いじゃねえか」
 肉の煮込みをかじりながら、レオンは称賛していた。
「へっへーん! 肉屋のオバちゃんに聞いたんだ」
 ケインが得意になって、手を腰に当てた。
「おお、あのオバちゃん、いろんな料理知ってるからなぁ。ケイン、お前、『おかみさん』に向いてんじゃねえの? 顔だってさ、昔っから、目がデッカくて、女の子みたいだったしさ」
 レオンがからかう。
 途端に、ケインは膨れっ面になった。
「なんだよー、カオのことは言うなよ。これでも、コンプレックスなんだからな! 」
「美少年だったって、褒めてやってんじゃねえか」
「ウソつけ! 小さい頃、よく女に間違われてたんだ。『まあ、ママそっくりのかわいい女の子ねえ! 』
な〜んて近所のおばさんにも言われたしさー。それがいやだったってこともあったんだけど、産みのかあさんがまだ亡くなる前に、ちょっとだけ剣を教えてもらって、――多分、かあさんは、自分の命があと僅かだって
わかってたんだろうな。――いざという時のために、俺がひとりでも自分の身を守れるようにって、
思ったんだろう。俺は、女の子みたいって言われるのが癪(しゃく)で、病気がちなかあさんを守れるよう、強い男になりたくて、稽古してた。でも、野盗には、全然通じなかったけどな」
 ケインの話を聞いているうちに、レオンも、彼との出会いを思い起こしていた。
「そう言やあ、お前、いい構えしてたもんな。あの時、その構えを見て、もしかしたら、こいつはすげえチビなんじゃねえかって思って、ちょっと戦闘振りを拝見してたら、まだあんまり実戦には慣れてなさそうなのがわかって、慌てて止めに入ったんだったな」
「あっ、ひでえな! いたいけなコドモが虐待されてんのを、黙って見ていやがったのか!? 」
 ケインが笑う。
「それにしても、お前のかーちゃん、すげえな。女戦士だったのか? 剣を教えられるなんて、そんな女、滅多にいねえぞ」
「ううん、かあさんは普通の人だったよ。俺がまだ三歳くらいの時に聞いたことだから、ちゃんとは覚えてないんだけど、かあさんのお父さん――俺のじいちゃんは、武道の達人だったんだって。俺のとうさんだった人も、じいちゃんの弟子のひとりで、一流の剣士だったらしい。会ったことはないんだけどね。それで、かあさんも
護身くらいはできたらしいよ」
 レオンは、突然真顔になり、ケインをじっと見つめた。
 それには気付かず、ケインはパンをかじり、煮込んだ肉を頬張った。
「……ケイン、お前が生まれた村は? 確か、お前は病気の母親と、旅の途中で立ち寄った村に、そのまま住んでたよな? その前にいた村の名は……? 」
 ケインの顔をじっと見据え、レオンは慎重に尋ねた。
「そうだなあ、何ってったっけなあ。……確か、ネル――いや、違う、ルーヴェなんとか……忘れちゃったよ」
 そう言ってスープを啜る彼をしばらく見つめ、レオンは、まるで答えを聞くのを恐れてでもいるかのように、躊躇(ためら)いがちに、再び尋ねた。
「……お前、いくつになる? 」
「やだなあ、レオン、俺のトシ、忘れちゃったのか? 一五だよ」
 ケインは煮込み汁を最後まで啜り終えると、席を立った。
 レオンはずっと黙りこくってしまい、食事の手も止まっていた。
 それへ、ケインは、ちらっと目をやっただけで、そのまま自分の分の器だけを、流し台へ運んだ。
(……もしかしたら、……いや、そんなはずは……だが、でも、……いや、しかし……)
 レオンの思考は、同じところで、ぐるぐると回っていた。

 とっぷりと日が暮れていた頃、一台の幌馬車が、森の中、典型的な山賊の格好の男たちに、襲われていた。
 幌馬車が転倒すると、約二〇人の山賊たちは、大きな段平や斧を、逃げ始めた二人の男女と、ひとりの子供に向けて、追いかけっこでも楽しむかのように振り回していた。
「待て! 」
 山賊が、声のする方を振り向く。
 暗がりの中から現れたのは、闇のような黒い髪を後ろで束ねた、浅黒い肌の男だ。
 手には、段平にしては大き過ぎる剣を持っている。
「なんだ、てめえは!? 」
 賊たちは、凶悪な顔で、レオンを睨む。
「俺は、お前たち賊に関しては、ハナが利(き)くんだ。ちょっと荷馬車の音が聞こえたもんで、こんな夜遅くだから心配して様子を見に来てみれば、案の定ってわけさ。ついでに薪でも拾っておくか」
 と、わざと大袈裟に、肩を竦めてみせた。
「なんでえ、キコリか!? ふざけた野郎だぜ! 」
 禿げ頭の男がバカにしたように言った。
「罪もない人々を襲うのはやめな。暴れたいんだったら、俺が相手になってやるぜ」
 レオンがにやっと笑い、手にしたバスターブレードを、挑発するように振ってみせた。
「へん! 誰がお前みたいなつまんねえキコリ野郎なんぞ、相手にするか! こっちの方がいいに決まってんじゃねえか! 」
 そう言った禿げ頭の賊が、目の前の女を押し倒した。その途端――
 バキッ! 
 その男の横顔に、レオンの飛び蹴りがくらわされた。賊は、悲鳴を上げながら、ごろごろと転がった。
「……や、野郎! よくもやりやがったな! 」
 捕まえていた男と子供を放り出し、賊たちは、すべて、彼を取り囲んだ。
「そうそう、そうこなくっちゃな」
 レオンは山賊に向かい、フッと笑ってみせた。女は彼に助け起こされ、連れの男と子供のもへと走る。
 どうやら家族のようだ。レオンは、ちらっとその様子を見て安心し、賊を見据える。その時だった。

 ぐるるるるるるるる……! 

 妙な物音だか、はたまた獣のうなり声だかが、辺りに谺(こだま)した。
 山賊たちも驚いて、辺りを見回す。レオンが小さく舌打ちした。
「……魔獣か! 」
 彼の低い呟きに、賊たちの中には「ひっ! 」と叫ぶ者もいる。
「夕方ならまだしも、こんなに日が暮れちまってたら、そりゃあ魔物も出るわな」
 レオンのセリフに、怯え出す賊の数も増えていく。
 そして、森の奥から、『ざわめき』がやってきた! 
「ひゃあーっ! 」
「うわあああ! 」
 賊のひとりが恐怖に耐えられず絶叫すると、火がついたように、次々と騒ぎ始めた。レオンは、剣を掴む手に力を込める。
 『闇に棲まうものたち』は、今、その姿を露(あらわ)にした! 
 ヒトなど簡単に飲み込めそうなほどの、大きく鋭く尖った嘴(くちばし)を持つ、巨大なトリであった!
 といって、羽のようなものは一切なく、代わりに、固そうな赤い皮膚が全身を覆う。足の爪も鋭く、翼の角にも、同じような角張った爪を生やす。
 その巨大トリに続くものたちは、ヒトよりも少し大きい程度であったが、上半身がトリ、下半身がヒトで出来ているという、おぞましい姿をしていて、その数は何十匹といたのだった。
「なんだ、これは!? 」
 山賊たちが悲鳴のような声を、それぞれ上げる。
「ミドル・モンスターだ! 誰か、召喚した者が、近くにいるはずだ! 」
 レオンが叫び、油断なく辺りを見渡す。ふと、巨大トリの嘴の脇が、赤く濡れているのが目につく。ヒトの衣服のような切れ端が、爪の先にもついていた。
(召喚した後、喰われたな!? ちっ! 誰だか知らねえが、生半可な魔術で、モンスターなんか召喚すん
な! )
 レオンは心の中で悪態をついた。
「いやだあ! 俺は抜けるぞ! 」
 モヒカン刈りの男が、武器を放り、走り出す。その途端、トリ顔の獣人モンスターたちが、さーっと男を追いかけ、瞬く間に囲まれてしまい、絶叫と共に、姿が見えなくなっていった。
「ああっ! アル! 」
「アルが喰われた! 」
 半狂乱になった賊たちが、逃げ惑う。
 巨大トリは、バサッバサッと翼を羽ばたかせた。恐れおののく人々に向かい、強風が襲いかかる。
 レオンはバスターブレードを構え、一気にトリ目がけて突進した! 

 ズバッ!
 グギャアアアア! 

 トリの本体に斬りつけるまではいかず、盾にした翼を傷付けたに過ぎなかった。
 彼の腕には、強い衝撃が走り、危うく剣を落としてしまいそうになる。
(……またか!? )
 レオンの剣を持つ手は、いつかのように、また痺れていた。
 山賊たちの上げる悲鳴は、徐々に減ってきていた。

 キエーッ! 

 巨大トリの耳障りな雄叫びが、辺りに響き渡り、山賊を相手にしていた獣人モンスターたちは、わらわらと
集まる。
(来る――! )
 ただならぬ気配を感じたレオンは、剣を左手に持ち替えると、悲鳴を上げる三人の家族連れを後ろに庇い、
魔獣に剣を向けた。

「……なんだ? 今の変な声は……? 」
 ケインは、寝室のベッドのシーツ直す手を止めた。
 近くに見える森が、なんだかざわめいているような気がして、不審に思い、窓の外に目を凝らす。
「なあ、レオン、森の方で――」
 レオンの寝室を覗きにいくが、彼の姿はそこにない。
 ケインは、なんとなく落ち着かない気持ちになり、剣を手にすると、ざわめく森へと駆け出していった。
「おーい、レオン! どこだー!? 」
 森の中へ入ろうとして、ケインはピタッと足を止めた。
「……血の匂い……! 」
 それは、戦場で嗅ぎ慣れた匂いであった。彼は、妙な胸騒ぎがして、走り出す。
(なんでこんなところで、血の匂いなんか――!? もしかして、野盗か!? )
 いくらもいかないうちに、また足を止める。
 ヒトの頭が落ちていたのだった! 
 恐怖のために開き切った目と口、バラバラになった腕や足には共通する、何かに喰いちぎられたように抉(えぐ)れた跡。革のベルトの切れ端、斧、段平――辺りには、山賊だったものの残骸が、飛び散っていたのだった。
(こ、これは……、人間の仕業じゃない! )
「レオン……レオーン! 」
 ケインは呼びかけながら、奥へと入って行くと、子供の啜り泣く声が遠くから聞こえてきたのに気付く。
「わあ〜ん! わあ〜ん! 」
 子供の姿は見付からないが、その声は、正面の岩の辺りから聞こえてくるように思えた。
「おーい、誰かいるのか!? 」
 ケインが歩み寄っていき、岩の前まで来て、ハッと息を飲んだ。
「……レオン! 」
 ケインの半分くらいの高さの、その岩だと思っていたものは、レオンの座っている姿であった! 
「レオン! ……レオン! どうしたのさ!? 何があったんだ!? 」
 ケインは、必死に彼を揺さぶった。レオンの目が、うっすら開いた。
「……よう、ケインか……? 」
 レオンは、にやっと笑おうとして、苦しそうに片目を瞑る。
「レオン、どこかケガして――」
「うわ〜ん! 」
 いきなり、ケインの懐(ふところ)に、小さな子供が飛び込んできた。今まで、レオンが抱いていたのだ。
「……この子は? 」
「……守りきれなかった……その子だけしか……」
 苦しそうに、レオンが呻く。泣いている子供を抱えると、ケインは、ハッとして、レオンの後ろに転がっているものを見つめた。
 それは、二体の変わり果てたヒトであったものの姿だった。
 そして、その奥には、巨大なトリのようなものが、全体を黒ずんだ緑色に染めて、転がっている。その周りにも、黒ずんだ物体が、てんてんと散らばっていた。
「な、なんだ、あのでっかいトリは! それに、あの黒いやつらは――!? 」
「モンスターだ」
 うろたえるケインに、レオンが呻くように答える。
「あれがモンスターだって!? あんなデカいヤツが、モンスターだっていうのか!? 」
「……あれは、夜になると、山や森をうろつく下等なモンスターどもとは……わけが違う。……もう少し強力なモンスターだ。あんなものは、滅多に出て来るモンじゃねえんだが、……呼び出したヤツは喰われちまったらしい。……それより、その子を――」
 ケインが、レオンに肩を貸そうと、彼の身体を起こすが、彼は、そのまま俯せに倒れてしまった。
「……レオン? 」
 ケインは、ハッと息を飲んだ。レオンの背には、深い傷が三本、斜めに走っていたのだった! 
 段平や斧などの刃物で斬りつけたような、きれいな切り口とは異なる、何かで抉ったような、まるで、巨大な野獣の牙か爪のようなものの跡であった。
(さっきのでかいモンスターに――!? )
「待ってろ、レオン! 今、『せんせい』のところへ連れていくからな! 」
 ケインはレオンを担ぐと、泣いている子供の手を引っ張りながら、出来る限り急いで森を抜けていった。

「まったく、悪運の強いヤツじゃ」
 村の医者である魔道士の家に着いた時、レオンは、寝台の上に横たえられ、白髪頭に白い口髭を生やした、太った老人の治療を受けていた。
 治療といっても、老人は両の掌を、レオンの怪我の部分に翳(かざ)しているだけであるのだが、レオンの身体に付けられた、抉られた深い傷は、みるみる塞がっていったのだった。
「おぬしたちの見たものは、おそらく、ミドル・モンスターじゃな」
 『治療』しながら、老魔道士は、真剣な表情になる。
「最近、よくない噂を耳にしたのじゃが、モンスターを召喚した魔道士が、次々と、自分の呼び出したものに喰われていっているらしい。制御出来ぬのなら、始めから召喚しなければいいのじゃが、どうやら、召喚したものとは違うものが出て来てしまっているというのじゃ。
 『魔道士の塔』が調べたところによると、どうも『時空の歪(ひず)み』というものがあちこちに出来ていて、
そこを通って、少々レベルの高いモンスターどもが、この世界に現れ始めているそうなのじゃ」
 ケインは、驚いて、老魔道士の顔を見つめた。
 レオンは驚いてはいなかったが、話には聞き耳を立てている。
「ほれ、もうだいたい良いぞ。発見が早かったからの。もうちっと遅かったら、傷口が化膿してしまい、治療中もっと苦しむことになったじゃろう」
 太った老人は、俯せているレオンの背を、音の出るほど強く叩いた。
「ちぇっ、なんでえ」
 レオンは、面白くなさそうに口の中で呟き、起き上がって、ぼろぼろになった衣服を着ようとして、やめた。
「まったく、ムチャすんなよ。もうい加減オヤジなんだからさ」
 ケインが、ほっとしたように、その様子を見て、わざとからかうような口調で言った。
「ケイン、その子をリディアのところへ連れていっておあげ。まだ施設におるじゃろうからな」
「うん」
 ケインは、老人に頷くと、泣き止んで放心してしまった子供の手を引き、部屋を出て行った。
「さて、レオン、そっちの手を見せてみよ」
 ケインの姿が見えなくなると、老人は、真剣な表情になり、レオンを見た。
「……ちっ、せんせいの目はごまかせねえか……」
 レオンは諦めたように笑うと、素直に右手を差し出した。
 魔道士の老人は、その手を取ると、しばらく無言で見つめていた。はたで見ている分には想像もつかないことであったが、彼は、今レオンの手に自分の全神経を集中させているのだった。魔力を使い、レオンの手を『診ている』のだ。
「……どうだ? 」
 少し心配そうに、レオンが魔道士の顔を見る。
 魔道士は、溜め息をついてから、口を開いた。
「剣を振るのは、これからは、大分難しくなってくるじゃろうな。このての病気は、ワシの魔力を持ってしても、完治は出来ないじゃろう。もっと上の魔道士なら、可能かも知れぬが……。どうじゃ、『魔道士の塔』へ行ってみるかね? もっとも、このままでも日常生活には差し障りはないが」
 レオンは老人の話を黙って聞いていたが、やがて、首を横に振った。
「いや、いい。あんたには、いつも良くしてもらってて悪いが、俺は魔道士なんぞが集まってる得体の知れねえところには、行く気はしねえ。死ぬほどの病気でもないんだったら、なおさらだ。例え、そうだったにしても、無理にあがこうとは思わねえ。
 俺は、ヒトは、自然にしてるのが一番いいって思ってるからな。得体の知れねえ魔術なんかで生き長らえても、そんな不自然なことをする方が、後で怖い目を見るような気がするぜ」
「まったく、おぬしの魔道嫌いも筋金入りじゃな! まあよい。さっきも言った通り、死ぬほどの病気というわけではないからの。ただし、その手で剣を振るのは、もう無理じゃ。特に、その大剣はな」
「わかってるよ。これからは、左利きに転向するよ」
 レオンは老魔道士に向かい、苦笑いした。老魔道士は、笑いもせずに、それを見ていた。
「それより、せんせい、……さっきの話だと、その……さっき俺が戦ったデカい魔獣は、これから頻繁に現れるかも知れないのかい? 」
「……おそらく、そうじゃろう」
「――となると、……ケインにも、対魔物用の剣を持たせてやんなくちゃなんねえな。だが、並の鍛冶屋じゃあ、そんなモン作れないだろうから、腕のいい鍛冶屋ってのを、探さねえとな。それも、結構、魔の世界にも
精通しているような――そんなヤツいるのか? 」
「おるとも。ごく少数ではあるが、東方のある小さな国とか、中原のアストーレ王国あたりにも、そんな鍛冶屋がいるらしいということは聞いたことがある。その鍛冶屋を当たってみるか? 」
「東方にしても、中原にしても、……ここから、大分あるなぁ。そこへ向かう最中に魔物に出てこられでもしたら――」
「または、普通の剣でも魔力を吹き込み、魔法剣にするば、魔物にも効くという。だが、ワシ程度の魔力では、たかが知れておるし……。それこそ、魔道士の塔の上級魔道士の方に頼めば、絶対なのじゃろうが、……たくさん金を取られるかも知れぬぞ。あそこは、結構がめついからのう」
 老魔道士は、太った身体を揺すって、ひとりでおかしそうに笑っていた。レオンは、黙って腕を組み、考え
込んでいた。
「そうそう、それと、もうひとつ方法はあるぞ」
 老人は、何かを思い付き、明るい声を出した。
「おぬしのバスターブレードのように伝説の剣なら、魔物斬りなど簡単じゃ。金はかからんが、その代わり、……命の保証はないがのう」
 老人は冗談めいた口調であったが、目は、真剣にレオンを見ていた。
 レオンも顔を上げ、はっとしたように、老人を見る。
「……伝説の剣のひとつ、『マスターソード』の眠っている地は、ここからそう遠くはないはずじゃ」
 老魔道士は、もう笑ってはいなかった。
「……マスターソード……! 」
 レオンと老魔道士の目が、正面からぶつかり合った! 


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