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作品名:『伝説の剣』Dragon Sword Saga 外伝 作者:かがみ透

第18回   第七章『伝説の剣 X』最後の戦い 〜 決戦 〜
「あそこに見えるのが、ローダンの山か」
 人ひとり通らない寂れた街道から、鬱蒼(うっそう)とした森野奥に聳(そび)え立つ山を見上げ、レオンが口を
開いた。
 彼も、村の老魔道士から受け取った魔除けのペンダントを首から下げている。
「ウマは、どうやら、ここまでのようだな。ここあらは、足で登って行った方がいいだろう」
 乗ってきたウマを、山の麓(ふもと)の、森の木につなぎ、レオンとケインは、ローダンの山へと、入っていった。
 予想通りに、進む度、獣人型を中心としたミドル・モンスターたちの襲撃に遭った二人だが、次々と切り
倒し、意気揚々と登っていく。
「もうすぐ頂上だよ、レオン」
 ケインがそう言って振り向いた時だった。
 今まで後ろに付いて来ていたはずのレオンの姿が、忽然(こつぜん)と消えてしまったのであった。
「あのオヤジ! やっぱり迷いやがったな! 」
 ケインは舌打ちすると、もと来た道を、レオンの名を呼びながら、戻り始めた。

「どこだ、ここは? 」
 もう上り坂はない。レオンは、しばらく首を傾げていた。
 そこへ、辺りが突然暗くなったと思うと、獣の唸り声が聞こえ、二つの黒い影が、ふいにレオンの目の前に
現れたのだった。
「よく来たな、レオン・ランドール」
 それが、一月前に村の空に浮かんでいた魔道士たちの実物だということは、レオンにはわかっていた。
 長身の痩せた方の男は、レオンと同じ位の背丈で、年齢も似たようなものか、もう少し上らしいと、彼は思った。
 もうひとりの、少し小柄な男は、三〇代半ばほどに見え、魔道士にしては、普通の青年らしさが感じられた。
「どうやら、ここがローダンの頂上らしいな。これは、願ってもみないことだったぜ」
 レオンが、にやっと笑った。
 彼は、ケインよりも、なんとか早く頂上に着いておきたかった。
 というのは、幸いにして、彼らは、レオンをマスターソードの所有者だと思い込んでいる。
 彼ら魔道士がケインと接触する前に、自分が彼らを倒せればせれで良い。
 また、失敗して、洗脳されそうになった場合は、老魔道士のくれた指輪を使うつもりだった。彼が死んでも、バスターブレードは、巨人族が取り返しに来るので、悪用されずに済む。
 彼は、やはり、毒の仕込まれた指輪を、ケインに渡すことはおろか、ケインをそのような危険な目に合わせたくない、という想いが強かったのだった。
「マスターソードはどうした? 」
 長身の魔道士は、無表情に問いかける。平坦な声に、沈んだ目と、その陰気な青白い面(おもて)には、ただならぬ魔力を秘めているらしいことを、レオンの戦士としての勘が見抜く。
「こいつだよ」
 レオンは、左手で、背中のバスターブレードを抜いてみせた。
「随分、大きいんだな」
 小柄な方の魔道士が、思わず呟いた。
(やはりな。奴等、剣をあまり知らねえな。それとも、マスターソードの姿形を、もともと知らなかったのかも知れん)
 レオンは、長身の魔道士に、再び視線を戻した。
「ザンドロスだっけ? あんた、『バール・ダハ』を呼び出そうなんて、バカなマネはやめねえか? 」
 バスターブレードの峰で、肩を叩きながら、レオンは明るく言った。
「ほう。何もかもわかっていて、ここまで来たというのか。無謀な」
 ザンドロスは、口の端を少し上げた。
「ならば、話は早い。貴様ごと、その剣を頂こう! 」
 ザンドロスが黒いマントを広げる。その中からは、魔物と思われる黒い奇妙な生き物たちが、一斉にレオン
目がけて襲いかかっていったのだった! 
 レオンは戦い慣れた様子で、バスターブレードでそれらを次々と切り伏せていった。
「おお! なんという威力だ! ザンドロス様、あのように、いとも簡単に魔獣どもを切り裂いてしまうのでは、奴を手に入れるのは困難かと……」
 小柄な方の男が困惑して、長身の魔道士を見上げる。
「ふむ……確かに、凄まじい威力ではあるが、……あれは、本当に、マスターソードだろうか」
 レオンの戦う姿を見ながら、ザンドロスが幾分怪訝そうな表情になる。
「私が大魔道士様からお聞きした限りでは、ただのロングソードと似たような形状をしている、ということであったが」
「しかし、あのように、魔物を切り刻んでおります」
「ふむ……」
 しばらく考え込んでいた魔道士は、突如、レオン目がけて、てのひらを向け、そこから炎の球を発射させた。
 勢いよく向かってきた火球に、はっと気付いたレオンは、バスターブレードで弾き返した。
「魔力も効かぬ。やはり、あれはマスターソードなのであろう」
 そう判断したザンドロスは、何もない空間から突然黒い木の杖を、右手に浮かび上がらせた。
(来るか!? )
 魔物を切り倒しながら、レオンは、ザンドロスへと、身体の向きを変える。
 魔道士が奇妙な言葉を唱え始めた。
 それが何かの呪文であるらしいことは、レオンにもわかる。
 途端に、レオンの周りに、地面まで覆う半円形の薄い膜が出来、彼とその周辺にいた黒い数匹の魔物たちは、閉じ込められた。
 そこへ、更に、魔道士の呪文が続く。
 長めの呪文が終わると同時に、ザンドロスの右手の杖から、青い電光が走り、膜へ伝わった。膜の中では、
電光が稲妻のように暴走していた! 
(なんだ、これは!? )
 レオンは、がくっと膝をついた。身体に直接ダメージを与えるというより、脳に、精神に作用する魔法であった。
 立ち上がろうとするが、抗えば抗うほど頭が割れるように痛み、身体全体の力が抜けていくのであった。
 レオンの周りの魔物たちは、とうに消滅している。
「ほう、まだ意識があるとは。並の人間の精神力を、とうに越えている。それだけ、貴様の精神は鍛えられて
きたのだろうが、そうであるほど苦しまなくてはならないとは、皮肉なものだ」
 ザンドロスの目が鋭くなった。
 レオンを包んだ膜の中では、一層激しく電光が走る。
 とうとう、呻きながら、彼は、俯せに倒れてしまった。
「ザンドロス様! まさか、奴は死んでしまったのでは……!? 」
 小柄な魔道士が、動揺する。
「馬鹿者。洗脳しやすいように、意識を遠ざけただけだ。まったく、これだから、新米魔道士と一緒に行動するのは面倒なのだ。大魔道士様の命令でなければ、おぬしなど連れて来たくはなかったのだ」
「す、すみません」
 ザンドロスに睨まれ、小柄な魔道士は、余計に小さくなった。
 
「レオーン! どこだー!? 」
 木々の間から、ひとりの少年が現れた。
 二人の魔道士は、目を見開いて、その姿をとらえた。
「あっ、こんなところで、何寝てるんだよ。ほら、行くぞ」
 倒れているレオンに、ケインが近寄ろうとして、はっと、魔道士たちに気が付いた。
「誰だ、お前たちは!? ……そう言えば、ここは頂上じゃないか。……そうか、お前たちだな、俺を洗脳しようとしてるやつらってのは! 」
 ケインは、マスターソードをすらっと抜いて構えた。
「誰が、貴様のような間抜けな小僧など洗脳するか! 邪魔をするなら、貴様も倒すまでだ! ザンドロス様、ここは、私めにお任せを」
 小柄な魔道士が進み出る。両手を丸く形を取り、呪文を唱え始めた。
 ケインが不審な顔になった。
「なんだ、そりゃ!? ……そうか、呪文だな!? それが、魔道士の使う呪文攻撃ってやつだな!? 
よーし、やってみろ! やってみろよ! 俺のマスターソードで、受けて立ってやるぜーっっっっっ!! 」
「うるせーっっ! 呪文を唱えるのに集中できないではないか! 少し黙ってろ、小僧! 」
 小柄な魔道士は、もう一度、始めから呪文を唱えようとした。
 それを、ザンドロスが、手で制した。
「小僧、今、マスターソードと言ったな? お前のその剣が、マスターソードなのか? 」
 魔導士の陰気な瞳は、ケインの剣に注がれた。
「そうだ! 俺が一五代目マスターソードの伝承者、ケイン・ランドールだ! 」
 レオンの作戦もむなしく、奇縁が左手を腰に当て、右手の剣を二人に向けた。
「なんだって!? じゃあ、マスターソードは二つあるのか!? 」
 小柄な魔道士が、悲鳴のような声を上げた。
「馬鹿者! そのようなことは、あるわけがない! どちらかが贋物(にせもの)だ! 」
 ザンドロスが新米魔道士を叱りつける。
「それでは、わたくしが試してみましょう」
 小柄な魔道士が、また別の長い呪文を唱える。
 ケインは、二人の魔道士に油断なく目を配る。
「ゆけ! デモン・ビースト! 」
 青年魔道士の目の前には、全身を薄黒い緑色に染め、二本の角を頭の横に生やした、ヒトの二倍はある不気味な姿をした獣人が現れたのだった。
 ケインは怯(ひる)むことなく、キッとそれを見据えると、剣を構える。
 獣人は牙を向き、ケインに躍りかかっていった。
 シャッ! 
 ケインを襲った鋭く尖った爪は、空しく空を切っていた。ケインは、咄嗟に飛び退いていた。
 続けて、獣人が突進していく。
 彼の剣は、次々繰り出される鋭い長い爪を防いでいく。
 デモン・ビーストの爪がマスターソードに接触する度に、バチバチと緑色の火花が散り、それは魔物にとって苦痛であるように、その度に獣人は退き、唸り声を上げ、警戒しながら別の方向からケインを襲おうと試みるのだった。
 どうやら、思うように獲物を捕らえられないと悟ったのか、獣人は、一旦、彼から離れると、雄叫びを上げた。
「……! 」
 ケインも、防御していた剣を止める。
 デモン・ビーストのからだは、次第に薄黒い緑色から、完全な黒へと変色していき、巨大化していったのだった。

 グワオオオ……! 

 更に巨大化した獣人は、現れた時の三倍はあろうか。
 目一杯広げられた牙だらけの口からは、炎の渦がいくつもの輪を描きながら、ケイン目指して発射された。
 巨大な炎の渦は、マスターソードに吸収され、消え去った。
 と、同時の、ケインの一薙(ひとな)ぎが、獣人を、一気に真っ二つにする! 
 二人の魔道士は、目を見張った。

 グギャアアア! 

 獣人の悲痛な叫びが終わらないうちに、ケインは高く飛び上がった。

「剣に棲(す)まいし
 黒い竜――ダーク・ドラゴン――よ
 今こそ目覚め、
 偉大なるその力を、
 貸し与えよ!」

 ドラゴン・マスターソードからは、黒い炎が噴出し、半透明の巨大な竜へと姿を変え、二つに裂けてなお動き回っている獣人を、巨大な口で一飲みした! 
「あああ! なんてことだ! 」
 小柄な魔道士の目には、その状況は、とうてい信じ難いものとして映っていた。
「思い知ったか! お前たち魔道士の使う黒魔法なんか、この俺には効かないのさ!  」
 ケインが剣先を向け、勝ち誇ったように言い切った。
「ザンドロス様! 」
 新米魔道士は、長身の魔道士を、観念したように見上げる。
「あれでは、奴を洗脳するなどは――! 」
「案ずるな。所詮は、あやつも人間だ」
 ザンドロスは、静かに目を閉じ、再び開くと、その目はぎらりと輝いた。
「奴は、既に、我が結界の中だ」
 ザンドロスが杖を振り上げると、ケインの知らない間に出来ていた周囲の薄い膜が、地面から伸び上がり、ドーム型に彼を包み込むと、レオンの時と同じく、青い電光が走ったのだった。
「何だこれ!? 」
 稲光の中で、ケインは頭を押さえ、膝をついた。
「き、汚いぞ! 人が戦ってる間に、変な仕掛けなんかしやがって――! 」
 喚(わめ)くケインを冷ややかに見つめながら、上級魔道士が口を開く。
「精神攻撃だ。その剣を手放せ。そうすれば、苦しみから解放される」
「いやだ! 誰がそんなことするもんか! 」
 彼はマスターソードを余計に強く握り締めるが、頭を締め付ける痛みは増すばかりだった。
 それでも、必死に術に対抗するため、剣を振るう。
「ほう。貴様も、父親のように、並の精神力ではないらしい。さすがに、伝説の剣を手に入れただけある。
だが、不死身というわけではあるまい。逆らわずに、剣を手放した方が、身のためだぞ」
(……父親……!? )
 苦しさの中で、開かれたケインの片方の瞳には、離れたところで倒れているレオンの姿が、ちらっと映った。
 ケインの身体は痺れ、言うことをきかなくなっていた。
 とうとう、どさっと俯せに倒れ込んだ彼の手からは、マスターソードがこぼれるようにして落ちた。
 ザンドロスがケインに近付き、剣を拾い上げた。
「これが、あの伝説のマスターソードか! ……ついに、我が手に……ふはははは! 」
 それまで一度も笑うことのなかった、表情のない青白い顔には、大胆な笑いが浮かぶ。
 仲間とはいえ、その異様さに、ビクッと身体をこわばらせ、怯えたように見ている小柄な魔道士の姿も、
そこにはあった。
「さて、それでは、貴様の洗脳にとりかかろう」
 長身の魔道士はしゃがみ込み、ケインの顔をぐいっと自分の方へ向けた。
 ケインが、苦しそうに片目を開く。
「悔しいか? 残念だったな、小僧」
 魔道士はマスターソードを小脇に抱えると、杖の先端についた緑色の宝玉を、ケインに翳した。
 緑の靄(もや)が、ケインの頭を覆い始めている。
「……誰が、……洗脳なんか……! 」
「往生際の悪いやつだ。観念しろ。洗脳も精神攻撃のひとつだ。さっさと受け入れないと、また先程のように、苦しむことになるぞ」
 その時だった。
 笑っていたザンドロスの表情が、瞬時に苦痛に歪む。
「ぐわあああああ! 」
 何かが魔道士の身体に重く食い込んでいた! 
 ケインは、はっと起き上がった。もう彼を苦しめる術は、解き放たれていた。
 どうっとそっくり返った魔道士の腕に突き刺さっていたのは、バスターブレードだった。
 ケインが振り返ると、倒れていたはずのレオンが、太った老人に抱えられて、立ち上がっていた。
「レオン! せんせい! いつの間に……! 」
 老魔道士は、ケインに微笑んだ。
「お前さんたちのいない間に、空間移動の術をマスターしたのじゃよ。もちろん、魔力を増強するアイテムに
頼らなくてはならんかったがのう」
 改めてケインが老人の姿に目をやると、大きな数珠の連なった首飾りや、全ての指にはめられたいろいろな色の宝石のついた指輪、ブレスレットなど、彼の身なりは随分とごてごてとしていたのだった。
「おのれ、貴様ら! 」
 小柄な魔道士が一瞬消えると、すぐに二人の前に姿を現し、短い呪文を唱えると、それをレオンと老魔道士に向けて発動させた。
 だが、その直前に、彼らの周りには緑の薄い膜ができ、魔道士の炎や電光など、魔法攻撃を簡単に防いでいたのだった。
「ほほほ、無駄じゃよ! これらのアイテムがあれば、ワシの魔力は、今や上級魔道士並じゃ! 貴様のような木っ端魔道士など、敵ではないわ! 」
 老魔道士が陽気に笑った。
「おのれ! この成金魔道士め! 」
「成金のどこが悪い! これだけの力を得るのに、どんだけ金がかかったと思っておるのじゃ! 貴様らヤミ
魔道士などは、魔道士の塔にも魔道士協会にも、一銭も払っとらんくせに! 」
 結界を隔てて言い争う魔道士たちを置いて、レオンが叫んだ。
「ケイン、そのバスターブレードを使え! そいつで、ザンドロスを叩っ斬るんだ! 」
 倒れている長身の魔道士の腕から、バスターブレードを抜き取ったケインは、即座に振り下ろした! 
 が、魔道士の姿は既にそこにはなく、代わりに、割れた宝珠の破片が、地面に飛び散る。
「よくも、親子そろって私の計画を邪魔してくれたな……! 」
 ザンドロスは宙に浮いていた。青白いその顔は、怒りの形相へと変貌している。
 傷付いていない方の手には、マスターソードが握られている。
 それへ、ケインがバスターブレードを向ける。
 魔道士の身体からは、奇妙な稲光が発している。
 それだけでなく、始めは小さな風圧だったものが、今では、二人を取り囲んだ竜巻のような暴風と化していたのだった。
「これで、貴様の逃げ場はなくなった。もう、助けも届かぬ」
 周りの景色がどうなっているのか、ケインには観察している余裕はない。吹きすさぶ暴風の中で見失うまいと、ザンドロスだけを目で追う。
「私には、この中のダーク・ドラゴンを操ることは出来なくとも、貴様ら生身の人間にとっては剣には違いない! おのれの剣にかかって死ぬがよい! 」
 魔力を最も引き出す宝玉を壊された今、魔道士が捨て身の一撃でくることを、ケインは彼の気迫から読み取った。
 ザンドロスがマスターソードを突き出し、ケインへと襲いかかっていく! 

 ガキィィィイイイン! 

 ケインがバスターブレードで受け止める。
 途端に、二つの剣は発光し、方々へ、閃光が走った。

「な、なんだ!? この力は!? 」
 ザンドロスが怯えた声を出した。
 ケインにも、剣を通して伝わる、ある強力な力が感じられる。
 同時に、閃光とともに、半透明の黒い西洋竜や白い東洋龍が、別々の方向へ、一瞬で飛び散っていくのも、
二人には見えた。
 それに構うことなく、ケインが一気に踏み込み、マスターソードを払い除(の)け、一気にザンドロスに斬りつけた! 
「ぐわあああああああ! 」
 ザンドロスの身体は絶叫とともに、閃光の収まった闇の中へと散っていった。
 吹きすさんでいた暴風も収まると、ケインの足元には、マスターソードが、音を立てて転がった。
「……ザ、ザンドロス様が……! そ、そんな……! あの上級魔道士だったお方が……! 」
 一人残った小柄な魔道士は、老魔道士たちへの攻撃の手を止め、顔面を蒼白にすると、慌てて空間の中に逃げ込んでいった。

「レオン! せんせい! 大丈夫か!? 」
 マスターソードを拾ったケインは、結界の解かれた老魔道士とレオンへ駆け寄った。
「よくやった、ケイン! 見事ザンドロスを倒したな! お前は、もう一人前の戦士だ! 」
 レオンが満足そうにケインの頭を撫でる。
 ケインも、嬉しそうにレオンを見上げた。
「マスターソードの様子はどうじゃ? さっき、バスターブレードと刃を交えた時、ダーク・ドラゴンとホワイト・ドラゴンが見えたような気がしたのじゃが……? 」
 老魔道士が、心配そうな顔で、マスターソードに視線を移した。
「ああ、やっぱり、いなくなってるみたいだ。三つの魔石の、どの力も感じられないや」
 ケインが、マスターソードを軽く翳してみてから、言った。
「伝説の剣同士で戦っちゃいけないのか? 」
 レオンが何気なく言う。
「マスターソードの正当な正統な持ち主じゃないヤツが使ったからだと思う。あいつは自分の欲望のためにだったし、吸収したドラゴンたちを扱えるのは、俺にしか出来ないからな。……あ〜あ、また魔石をそろえなくちゃいけないのかなー」
 そう言いながら、伸びをしたケインの顔は、それほど落ち込んではいないようだった。
「村に帰ったら、ワシの水晶球で占ってみようかの? 」
「多分、わからないと思う。魔石は、魔道士の魔力でも探し出すのは難しいらしいからね。かといって、またあのマスターのところに行って、頭下げるのも、なんかやだしなー……。ま、いいや。そのうちなんとかするよ」
 あっさりとそう言ってのけたケインを、呆気に取られて見る二人であった。
「……お前、随分、楽観的だな」
 レオンが目を丸くしながら言う。
「そう? レオンに似たんだよ。実の親子なんだろ? 俺たち」
 レオンも老魔道士も、驚いてケインを見つめた。
「お前……! 気が付いてたのか!? 」
 レオンがうろたえる。
「えーっ!! 」
 今度は、ケインがうろたえ出した。
「ほんとだったのかよ!? ほんとに、レオンが、俺の親父だったのか!? 」
「なにっ!? お前、わかってて言ったんじゃないのか!? 」
「知らないよー! あいつが――ザンドロスが、俺たちのこと、親子だって言ってたから! 」
「名字が同じだから、そう言っただけじゃないのか!? 」
「なんだ! そうだったのかあ! 」
 ケインが頭を抱え込む。
 レオンも頭を抱え込む。
「こういうことは、魔物にでも倒された時に、今際(いまわ)の際(きわ)に、カッコよく打ち明けようと思ってたのに! こんなことで、バレてしまうとは……不覚だ! 」
「なにぃ!? すると、てめえは、死ぬまで、俺に父親だってこと隠してるつもりだったのか!? 」
 焦ってレオンがそれに言い訳しようとしていると、
「とにかく、二人とも、……村へ帰らんかね? 話はその後でも遅くはないじゃろう」
 遠慮がちに、老魔道士が、切り出した。


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