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作品名:Dragon Sword Saga 第3巻『砂漠の謎』 作者:かがみ透

第3回   U.『刺客』〜1〜
 それから、しばらく進み、一行は休憩を取る。
 周りは、相変わらずの荒野で、前方にはひどい砂埃が見える。
 マリスが予告した通り、そのあたりから砂漠に入るようになる。
「やっぱり、砂漠を通らなくちゃいけないのかしら」
 クレアが、不安そうな表情で、ケインに尋ねた。
「どうかな。ヴァル、次元の穴は、どの辺か、もうわかるか? 」
 ケインはウマから下りて、木陰で座っているヴァルを見るが、彼はピクリとも動かない。瞑想に入っているようだ。
 邪魔をしてはいけないと思ったミュミュが飛んできて、ケインの肩に止まり、一行を見回した。
「ミュミュも魔物のいるところくらい、わかるよ。今のところは何もいないみたい。
それに、妖精の力は、人間の魔力と違って減ることはないんだよー」
「だったら、ミュミュ、見てこいよ」
 ケインが言うと、彼女は目を見開いた。
「やだっ! 何かあっても、ヴァルのお兄ちゃんは瞑想中だし、誰もミュミュのこと助けらんないじゃないの! だから、やだよー」
「……あ、そう……」
 ケインは、仕方のなさそうに横目でミュミュを見る。
 ふと、別の木陰では、カイルが地面に倒れ込んで、呻き声を上げていた。
「どうした、カイル? へばったのか? 」
 ケインは、彼に近寄っていく。クレアも、後に続いた。
「……な……んな……おんな……」
 彼の呻き声が聞き取れると、クレアは呆れた顔になって、戻って行った。
「……おい……」
 ケインも呆れて、カイルの肩を揺さぶるが、俯せたまま、カイルがぶつぶつ言い出す。
「アストーレを出て、何日経ったっけ? 」
「何日って……、まだ一週間くらいじゃないのか? 」
「一週間!? まだそんなもんだったのか!? 俺はまた一ヶ月以上も経っちまったかと思ったぜ」
「だって、何晩寝たか、思い出してみろよ。そんなに経ってないはずだろ? 」
「そんなもん、思い出したくもねえよ! ごつごつした岩場か、マシなところでさえ、草むらの上だ。
 柔らかいベッドの代わりに、寝袋なんかでスマキになって……それに、もうずっと女の子とデートしてない。喋ったり、お茶もすらも。こんなことは、いくさ以来だ! 」
 ケインは、呆れてカイルを見下ろしていた。
「砂漠になんか行ったら、ますます女が遠のいていく。ああ! いったい、いつになったら、町やら村やらに着くんだ!? 」
「あのなあ、俺たちは、次元の穴を探してるんだぞ。町や村を観光しに行ってるわけじゃないんだから」
 ケインは、無理矢理カイルを抱き起こして、座らせた。
「お前もヴァルみたいに瞑想して、煩悩を追い払ったらどうだ? そうすれば、女がいなくても、辛くないだろ? 」
 冗談混じりにケインが言うが、彼の耳には全く入っていない様子だった。
「ああ、スーちゃんみたいな刺激的なカッコ見せられると、余計に女(ひと)恋しくなっちゃうよなー。一ヶ月も、この俺が女の子と遊んでないなんて……! 」
「だから、一週間だってば。お前、スーちゃんのこと、あんまりよく言ってなかったじゃないか。露出は抑えてでも、しとやかで、ほのかに香る色気の方がいいって。まーったく、言うことがコロコロ変わるんだから」
 思わず呆れた言葉が、ケインの口をついて出ていた。
「お前さあ、スーちゃんと初めて会った時、なんでマリスがあんなに怒ったのか、わかるか? 」
 すわった目をしたまま、カイルが言った。
「突然何を言い出すんだよ」
「アストーレで、マリスは、マリユス・ミラーって名乗って、少年騎士を装ってただろ? 自分から男装してたし、いろんなヤツに男扱いされても、ずっと平気だったのに、なんでスーちゃんには珍しく感情をさらけ出して怒ってたのか」
「それは、スーちゃんが、あからさまに挑発したからじゃないのか? 」
 カイルは首を振って、人差し指を立ててみせた。
「俺が思うには、マリスは、自分の女としての自信があんまりないんだよ。だから、スーちゃんとかマリリンみたいに『女らしい』やつらを見ると、羨ましくて嫉妬しちゃうんだろう」
「……ひどいこと言うなー」
「あいつだって、スタイルはいいし、色気が全然ないわけじゃないんだけど、どうしても、女性的っていうよりは、中性的じゃん? 年の割には大人びてるけど、スーちゃんの色気は、あれは年の功だ。いくらマリスが頑張っても、すぐに身に付くもんじゃない。コンプレックスを刺激されたから、あんなに怒ってたんだよ」
 カイルは、いつの間にか元気を取り戻していて、生き生きと喋っていた。
(なるほど、ヤツの原動力は、やはり『女』なのか。女の話をしているだけで、こんなに元気が湧いてくるとは)
 ケインは、妙なことに感心した。
「それで、お前、マリスとはどうなんだ? 」
「は!? 」
 唐突なカイルの質問に、ケインは面食らった。
「トボケるなよ。アストーレでお姫さんと結婚しなかったのは、マリスに惚れてたからだろう? だから、一緒に旅することにしたんだろう? 」
 カイルは、ふざけてケインの首に巻き付き、締め上げた。
「ち、違うってば! 」
「ウソつけ! でなきゃ、なんでアストーレを出て、その上、マリスにくっついて回ってるんだよ。それって、好きだからだろ? 白状しちゃえよ! 」
 カイルは、マリスの素性は知らない。ここで、ベアトリクス王女であることを打ち明けるのは、彼女の意志ではないのは、ケインもわかっていた。
 苦し紛れに、なんとか脱出を試みる。
「カイル、お前こそ、実はマリスが好きなんじゃないのか? さっきからマリスの話ばかりだし、俺に、こんなにしつこく彼女のこと聞くのが、その証拠じゃないか」
 ぱっと、彼の手がケインから離れた。
「な……なんで、わかったんだ!? 」
「なに!? ホントだったのか!? 」
 カイルは、ぷっと吹き出し、腹を抱えて笑い出した。
「じょーだんだよ、じょーだん! ああ、おかしー! ケインて、からかうとおもしれーな! また頼むわ!」
 彼は、笑い過ぎて目尻に涙を浮かべながら、ケインの肩をぽんぽん叩いた。
 ケインは、口をあんぐり開けたまま、怒る気力も湧かなかった。

「ヴァルが瞑想から戻る前に、あたしも身体を動かしておこうかしら」
 マリスが腕を回しながら、ケインとカイルのところへやってきた。
「ケイン、特訓するから付き合って。あっちに木陰がちょこちょこあったの。そこでどう? 」
 カイルにからかわれた後で、ケインはカイルの視線が気になった。
「わざわざ場所変えるなんて、アヤシイなぁ〜。ホントに特訓かねぇ」
 案の定、カイルが口笛を吹いて冷やかす。
 マリスは、焦るでも怒るでもなく、にっこり笑ってみせた。
「なんなら、ここでやってみせてもいいし、カイルも一緒に、ケインと二人がかりでかかってきてくれてもいいわよ。その代わり、ここがどうなっても知らないし、ケインみたいに武遊浮術(ぶゆうじゅつ)身に着けてないと、怪我しない保証は出来ないけど、それでもいいんなら」
 カイルの表情が、冷やかし顔のままで固まった。
「なんで、あたしが毎日特訓してるか、教えてあげましょうか? 『獣神サンダガー』を召喚するようになってから、やたら食欲が湧くし、一日一回は暴れないとストレス貯まるのよ。発散しないと、サンダガーのコントロールも、うまく行かない気がするから。
 野盗でも魔物でもいればいいんだけど、ここのところ出くわさないし。ケインが相手なら、あたしも手加減なしでいいから、一番助かるのよ。でも、カイルも協力してくれるんなら嬉しいわ! 是非、一緒にお相手願うわ! 」
 マリスが手を合わせて喜ぶと、みるみるカイルの顔が引き攣っていく。
「……頼んだぞ、ケイン。俺の分まで」
 ぽんとケインの肩に手を置くと、カイルは、ヴァルドリューズの隣に座り、脚を組んだ。
「ボクは、ここで、煩悩を追い払うため、瞑想してるので、邪魔しないで。どうぞ他でやってください」
「だそうよ、ケイン。行きましょ」
 唖然としているケインの腕を、マリスは引っ張っていった。
 以来、カイルは、二人のことは冷やかさなくなった。

 ケインの身体が、大きく宙を舞う! 場所に着いた途端、マリスが一瞬のうちに彼を背負い投げたのだった。
 大きく飛ばされたおかげで、咄嗟に体勢を整えて着地することが出来たケインであるが、それを待っていたのは、繰り出される突きであった。
 それを受け、払いのけ、蹴りも躱(かわ)していく。
 一頻(ひとしき)り暴れたのち、マリスは、実に爽やかな笑顔になった。
「やっぱり、ケインだと安心して攻撃出来るから、助かっちゃうわ! 」
 彼の方は、彼女の攻撃を、いくらかヒヤヒヤしながら受けていたのだったが、彼にとってもいい特訓であった、と自分に言い聞かせておくことにした。
 それにしても、暴れた後で見せる、晴れ晴れとした笑顔を見ると、彼としても、良い思いをした気分になれた反面、
(やっぱり、マリスって野蛮人だよな。……王女のくせに)
 と、思わずにもいられないのだった。

「あそこに行商人(キャラバン)がいるわ。行きましょう」
 マリスの指さした方角、砂漠の手前に並ぶキャラバンの群れへと、ウマを進める。
 砂漠を渡るには、ダグラという、ウマとは別の動物に乗り換える必要があった。ウマでは、砂に足を取られてしまい、思う通りには進めず、ウマの疲労も大きい。
 ダグラは、ウマと似た外見だが、ウマよりも、首が持ち上がった分、体高が大きく、尾はトリのようにふさふさと吹き出し、頭にもふさふさの毛が、トサカのように立っていた。
 足の指もトリのように、三つ、四つに別れ、砂をかき出せる水かきのような、厚みのある砂かきがついていた。
 頭から長い白い布を被り、茶色の皮膚をした、西洋とは人種の違う行商人たちは、ダグラに関しては、リブ金貨よりもウマと交換したがっていたので、一行の乗っていたウマの分しか手に入らなかった。
 キャラバンの出店では、他に、水や食料、日除け用の布や雑貨などが、並んでいる。
 日除けの布と食料、大きめの革袋に入った水と、小分け用の水筒などを買い、道案内人をひとり頼むと、マリスとカイル、クレアとケイン、ヴァルドリューズで一頭ずつダグラに乗る。
 進むごとに、地面は徐々に砂地に近くなっていった。

「お客さん、運が良かったアルよ! この間まで振っていた大雨も、つい昨日止んだアルよ。砂漠、乾くの早いアルから、もう地面は砂に戻ってるアル! 」
 二本のヘビのような、変わった形の口髭を生やした、背の低い、太った茶褐色の肌の男は、頭から垂らした白い布を環で止め、膨らんだ白いパンツを履いていた。
 東方の地域によくある格好であった。
「チョウさんは、東方の出身か? 」
 案内人(ガイド)に、親し気な少年口調で、白い甲冑のマリスが尋ねた。
「おお、いかにもそうアルよ! 坊ちゃん、なんでわかったアルか!? 」
 太ったガイドの男は、自分のダグラの上で、うれしそうに、ちょっとだけ跳ねた。
「その衣装は、東方特有のものだろう? 出身は? 」
「タイラ国アルよ。東洋の大国ラータン・マオの近くの国、そこのコウガ・リョン・シティーアルよ」
 ラータン・マオとは、ヴァルドリューズが宮廷魔道士を勤めていた国である。
「ふ〜ん、東方の国の名前までは、よく知らないや」
 ヴァルドリューズは訳ありでラータンを出て来ているのは、一行の皆が知っていた。マリスが、念のため、あえてとぼけたのは、皆にも通じている。
「お客さんたち、どこへ行くネ? 」
 チョウは、人のいい笑顔で尋ねる。
「魔物を退治しにきたのさ。この辺で魔物が出たっていう噂を聞かなかったか? 」
「お客さんたち、魔物を退治して回ってルか? なんで、そんなことしてるアルか? 」
 チョウが、眉間に皺を刻んでいる。
「賞金稼ぎだよ。オレたちは、魔物を倒して賞金を頂くために、諸国を旅して、こんなところにまで来ているのさ」
 マリスは、にっこり笑い、スーたちの情報から、この辺りでは最も無難な賞金稼ぎを咄嗟に繕った。
「アイヤー! 賞金稼ぎの人たちだったアルか!? それで、魔物を探してたアルか!? ああ、納得いったアル! 」
 チョウは、ぽんと手を打った。
「諸国を旅して来られたなら、ちょっと聞きたいアルが、……実は、これ、内緒アルけど……」
 チョウは、何か重大な秘密を打ち明けるような、深刻な表情になった。
「キャラバンに通達されたアルよ。なんでも、ある国からの要請で、二人組の男女を探しているらしいアルよ」
「へえ、なんなんだい? それって」
 カイルが相槌を打つ。
「その二人っていうのは、ひとりはまだ若い少女の兵士で、もうひとりも若い男の魔道士だというアルよ」
 一行の背筋に、緊張が走った。
「へえ、その二人は、魔物を倒してまわってるのかい? てことは、オレたちと同業の奴等ってわけか」
 カイルが、うんうん頷く。マリスに話を合わせていることがわかる。
「賞金稼ぎとは違うらしいアルよ。二人は、ある野望を達成しようとしているらしいアル。なんだか、とても恐ろしい邪神を呼び出して操り、この世を征服しようとしているらしいアル! 」
(『サンダガー』のことだろうか……? )
 ケインは、ちらっとマリスの横顔を見る。
「ええっ!? 邪神を呼び出して、世界征服だって!? 」
 カイルが驚き、ダグラから落ちそうになった。
 その反応に、チョウは、満足そうに話を続けた。
「その国の政府は、二人を生かして捕えるのだと、あらゆる国々にお触れを出したそうアル。だけど、二人の足取りは、どういうわけか、ある小さな村で、ぱったりと途切れてしまったようアルよ」
 そこで、チョウは、一行の顔を見回す。
「お客さんたち、そんな噂を聞いたことはないかね? 」
「さあな。俺たち、魔物の情報なら気にしてたけど、そんな話は聞かなかったしなー。マリユス、お前どうだ?」
 カイルが、マリスに振った。打ち合わせなどはしていなかったが、咄嗟に少年騎士の偽名を使う。
「さあ、……オレも聞かなかったな」マリスも、首を傾げてみせてから、答える。
「悪いな、おっちゃん。力になれなくて。それよりも、魔物はこの辺りには出ないのか? この砂漠を越えた辺りはどうだ? 」
 カイルが何気なく、ガイドに尋ねた。
「そうアルなー、魔物というか、この辺りには、夜になると、砂漠で命を落としていった者の死霊が出ると言われているアルよ。この先にオアシスあるが、そこで新しいガイドさんいるアルから、その人に聞いてみるよろし」
 チョウはがっかりしたように、肩を落とした。
「あんたが、背格好もその少女兵に似とるアルが、聞いていた甲冑とは違うし、男では、全然違うアルな」
 マリスを見ながら、ぶつぶつと、チョウが言う。
「オレもたまに、女に間違われるけどさ、これでも正真正銘の男なんだ。オレたちは、魔物退治の『白い騎士団』だ。ずっとこのメンバーで旅を続けてるけど、そんな二人組は見たことなかったよ。悪いな、チョウさん」
 マリスは、悪そうに笑いかけた。

「あのガイドの言うことは、おかしいわ」
 辺りは、夜になりかけていた。
 マリスとケインは、皆が休んでいるところから少し離れた場所で、特訓していた。昼間の時とは違い、ケインもたまに攻撃する。その特訓の最中に、マリスが、彼にだけ聞こえるように、言っていた。
「あたしは、情報収集の時に、必ず、あたしとヴァルのことが噂になっていないかどうかも、確かめてきたわ」
 彼女が祖国の追手を警戒していることは、聞かされている。
 マリスの右拳がケインの頬を掠めたが、ケインもそれを避けながら、拳を繰り出す。
 彼の蹴りを、軽く飛んで躱(かわ)すと、彼女は再び口を開いた。
「邪神がどうのって言ってたけど、それが一番引っかかったわ。だって、あたし達は、人前で『サンダガー』を呼び出したことは、ほとんどないのよ。
 それに、『あの国』は、『サンダガー』どころか、あたしとヴァルが出会ったことすら、知るわけないんだから! 」
 シュッと向かって来たマリスの拳を、ケインが手の甲で受け止める。
「『あの人たち』は、あくまでも、あたしだけが目的のはず。二人を、雁首揃えて生け捕れ、なんて言うはずないわ! 各国に触れを出したとも言ってたけど、アトレ・シティーでだって、そんな話耳にしなかったし。だから、あのガイドは、ウソの情報を掴まされたか、もしくは……」
 マリスは、最後まで言うことはできなかった。
 クレアとチョウの悲鳴が、打ち切ったのだ! 
 


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